第四話 関係の終わり

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「風岡、来月から三年だよな? こんな淫蕩ぶりで受験大丈夫なのかよ」 「大丈夫です。僕、勉強得意なので」 「知ってる。理数だけなら、学年一位だもんな」  僕が三年生になるということは、先生と過ごせるのもあと一年だ。いや、もっと早いかもしれない。  永田先生は去年子供を出産していて、今年の四月から子供を保育園に預けることが出来たら復帰するのだそうだ。非常勤講師の観月先生は、それが決まり次第学校を離れることになる。  胸の奥が、きゅっと締め付けられるように苦しくなる。このまま先生と離れることになれば、先生と僕は二度と会うことは無くなるという予感がしていたから。  先生はまだ、僕を見てくれていない。  頭の後ろで手を組んだ格好で天井を見詰めている先生の横顔を眺める。先生の綺麗な栗色の波打つ髪、そしてヘーゼルの瞳は淡い照明の色に反射して金にも緑にも茶にも見えた。 「……先生って、ハーフですか」 「ダブル、な。……そうだったら何?」  無感情を装っても、先生の瞳の虹彩は嘘が吐けない。先生にテストのことで呼び出された時も、先生は僕が容姿について聞いた時、瞳の虹彩が僅かに収縮した。 「先生の髪も眼も、特別に綺麗だから」  先生は身体を起こすと鞄の中から煙草とライターを取り出す。ベッドの上に座って煙草に火を点けると、深く吸い込んで煙を吐き出した。 「父親がカナダ人らしい。籍入れる前に別れて俺が生まれて、今の父親と結婚したらしいから」 「そう、なんですね」  ふう、と吐き出した白煙が消えていくのを、先生は見詰めている。
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