第四話 関係の終わり

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「そ。普通に日本人顔だからさ、家族で俺だけ父親が違うって、言われるまで気付かなかったけど……まあ、髪とか眼とか結構からかわれたから、じゃあ仕方ねえなって思えるようにはなったよ」  今は髪を染めている同世代なんて幾らでも居るだろうけれど、子供の頃は人と違うことに苦労をしてきただろうと思う。 「先生が色の付いた眼鏡を掛けるのは、眼を隠すため……ですか?」  ぴく、と先生の煙草を持つ手が反応する。そして、動きを止め俯き加減に煙を吐いた。 「……蛍光灯が眩しいんじゃないかって……色付きの眼鏡を掛けてみたらどうかって……言ってくれた人が、居たんだ」  その時の先生の搾り出すような弱々しい声を、心を締め付けるような優しい表情を、僕は忘れることは無いだろう。  遠く、記憶の彼方にあるその思い出を見詰めながら、大事そうに、募らせた想いを込めて呟くように言った先生の顔は、恋をしている人のものに、似ていた。  先生の想い人は、きっと手の届かないところに居る。もう会うことのない人なのかもしれない。  まるで、未来の僕と先生のように。 「……先生が眼鏡を掛けている時って、雰囲気が全然違いますよね」  それは「地雷」だと解っていた。でも、言わずにはいられなかった。  もしこのまま何も言わずにいたら、僕らの関係はどのみち終わってしまうと思ったから。 「それって、もしかして……誰かの――」 「黙れよ」  低くくぐもった声。顔に苛立ちと怒りと、僅かばかりの焦燥を浮かべて、先生は乱暴に煙草を灰皿に押し付ける。
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