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「一温、こっち!」
バーに入ると、カウンターに座っていた謙さんが手を振っていて、僕はその隣の席に座った。この間謙さんと入ったバーだったが、迷わず来られて良かった。
「またジンジャーエールでいい?」
「はい」
謙さんと乾杯した後、僕は好きな人のことを忘れるにはどうしたらいいか訊ねた。
あの日以来、僕は化学準備室には行くことができずにいて、先生から僕に話しかけてくるようなことも無かった。
このまま先生を好きな気持ちが風化していくのを待つしかないのだろうけれど、週に何度も授業で顔を合わせることになっていては、想いが募っていくばかりだった。
僕は大学生で相手はバイト先の店長ということにして、一方的に好きになって関係を持ったけど、相手に別れを告げられてしまったと説明した。
「忘れるのって難しいよ。俺だって今まで散々な彼氏だったけど、別れた後しばらくは絶対引き摺ったもんなあ」
謙さんは頬杖をついてグラスを回し、氷をカラカラと鳴らした。
「いつも……どうやって立ち直るんですか」
「俺は適当な相手捕まえてセックスして忘れる、かな。そのうちの誰かと良い感じになってくっついて、って感じ。ぶっちゃけ俺はそれの繰り返しだから参考にならないよ」
そう言って笑う謙さんを僕はじっと見詰めた。顔はいいと思うし、体格もがっしりしていて男らしい。モテそうなのに、恋人が居ないのが不思議なくらいだ。
「……僕を、抱いてくれませんか」
と、謙さんは口に含んでいた酒を噴き出した。そして、驚いた顔で僕の方を見る。
「急にどうしたの? 一温は別に俺のことタイプじゃないっしょ?」
テーブルに飛び散った酒をおしぼりで拭った後、困った顔で笑って僕の頭を撫でた。
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