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それはいくつかの写真だった。そしてそこに写っていたのは、謙さんと並んで歩いている姿。恐らく十日ほど前に会っていた時のものだった。
「貴方、どうしてこんないかがわしいところに居たの? この男は誰なの?」
どういうことか分からず頭が真っ白になる。身を乗り出し問い詰めるように言う母を押さえ、父が口を開く。
「母さんは最近一温の様子が変だと心配して、探偵に依頼したんだ。その時に撮れたのがこの写真だ」
茫然として、母の顔を見た。母は僕を軽蔑するような眼で見詰めていて、その視線に耐え切れず目を逸らした。
「ここは、同性愛者の人が行く店だそうだね」
店に入っていく僕の写真と謙さんと一緒に店を出た時の写真を僕の前に突き付ける。
「一温は……同性愛者なのか?」
僕を見詰める父は、黒と分かっている者を弾劾し更に追い詰めるような厳しい表情をしていた。僕にはもう、逃げ道はないと言うように。
写真を見詰めたまま押し黙る僕に、父は「そうか」と納得するように呟いた。
「……じゃあ、この話も本当なのね?」
そう言うと、母は自分のスマホを取り出して画面を操作する。と、店で謙さんと話した内容が流れ出した。そして話の途中で止めると、母は目に涙を浮かべながら立ち上がり、僕の隣に来ると、僕の両肩を掴んで僕を見下ろした。
「貴方、この男か誰かと、汚らわしいことをしたのね……! 誰なの、相手は? バイト先の店長って、どこの誰?」
凄い剣幕で僕に詰め寄る母を、父は止めもせず、寧ろ一人息子が同性愛者だと知って、もうどうなろうと構わない、関係ないという様子で傍観していた。
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