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第五話 絶望
その日から、終業式の日まで母の付き添い無しには、僕は外に出ることが出来なかった。
母は僕からスマホを取り上げ、母が家を空けている間に僕が外出した場合すぐに分かるように、玄関やリビングに子供やペットの様子を確認できるカメラを置いた。
その異常な監視状態は、僕を平坦な感情のまま過ごしていた頃に戻すには十分だった。
母は僕を電話で転校できる底辺高に転校させることに決めた。それが自宅から少し遠いことと男子校であることが懸念点のようだったが。
「始業式までに住所の変更が間に合いそうにないから、少し遅れて通うことにけど、良いわね」
四月に入り、母の言葉に最早何も感じなくなった頃だった。
ダイニングテーブルで夕食を取っていると、母は「住所の変更」という聞き慣れない言葉を口にした。僕と目が合うと、母さんはほくそ笑んだ。
「ああ、貴方だけね。ここから通うのは不便な場所だし、貴方が学校をサボって観月や他の同性愛者に会いに行ったりしないように今の学校から遠くに住まわせる方がいいし、監視するのにマンスリーマンションは便利だったのよ。二十四時間管理人さんが出入りを確認してくれるらしいから」
半分聞き流していた言葉の中に、何度も忘れようとして忘れられなかった人の名前が混じっていたことに気付いた。
「今……なんて……?」
「だから、マンスリーマンションに――」
「違う! どうして今、その名前を……!」
立ち上がった瞬間、大きな音を立てて椅子が後ろに倒れた。母は少し不味いという顔をした後、僕を見上げた。
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