第二話 初恋

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 ゴールデンウィークを前にして、風邪が流行り、化学担当の女子が二人とも数日休んでいた。  各教科の担当は課題を集めて先生に提出するのがクラスの仕事として割り当てられていたのだが、二人とも居ないので担任の独断と偏見で図書委員の僕が化学の担当に任命された。  教師としては、部活動もしておらず言われれば文句も言わずにやる僕が、一番都合が良かったのだろう。  そして今にして思うと、男性教師の間では、観月先生が女子にちやほやされているのをよく思っていなかったのだと思う。化学の教科担当を決める時、クラスのほとんどの女子が立候補していたぐらいだから、僕でなくても女子なら仕事を押し付けられても嫌がらなかったはずだからだ。  その日ちょうど化学の課題提出の日で、僕はホームルームの後課題を集め、放課後観月先生のいる化学準備室に向かった。産休中の永田先生の机がそのままになっていて、更に職員室の机に空きがなかったため、観月(みづき)先生は化学準備室を使っていた。  夕暮れに染まる校舎を、課題のプリントを持って歩く。特別教室棟の化学室のある階に着くと化学室の反対側にある音楽室から吹奏楽部の金管楽器の音が聞こえてきた。一般の教室がある棟ではないから、生徒の姿はない。  化学室の横にある小さな部屋、化学準備室を先生が居るかどうか確かめようと思い、覗き込んだ。その先生の姿を見た時、僕は声を掛けることも忘れて呆然と見詰めることしかできなかった。  観月先生は眼鏡を外していた。普段チェーン付きの眼鏡を掛けているのに、一度も外している姿は見たことがなかったが、その理由のひとつを僕は知ることになった。  先生の眼は夕日に染まって赤く見えたが、その色はほとんど金色に近い薄茶だった。髪の色も生徒達は染めていると思っているようだったが、本当に栗色の美しい色が本来の彼の髪の色なのだと思う。  だが、そういった物珍しい容姿が、僕を惹き付ける理由ではなかった。
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