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たい焼き?そんな事あったっけ?って記憶が戻るのに数秒かかった。
「…あ、咲良ちゃんが5個食べちゃった時?」
「そうそう。あれ、嬉しかったよ。すっごく慰められた。だから、今度は私の番ね。」
ああそっか、“友だち”ってこれで良いんだ。それがストンと心に落ちてきた。
「…えっと、じゃあトリプルカップで…。」
「げっ。せっ、せめて、ダブルで…」
「えー、たい焼き、私の分まで食べたでしょ。絶対トリプルー!」
たわいも無い言い合いをしていたら、涙は引っこんでいった。
去年の冬、泣きながらたい焼きを頬張っていた咲良ちゃんを思い出した。涙と鼻水で苦しそうなのに、それでも次々とたい焼きにかぶりついていた。それを食べたら浮上出来るって、知っているから。
今日は私が咲良ちゃんに甘えよう。ショーケースに並ぶ色とりどりのアイスクリームを思い浮かべた。それだけでほんの少し浮上する。
「あのね、新商品の黒糖タピオカ入りのバニラ、美味しいんだって。」
「絶対食べるー!」
甘いものの癒しと、友だちの笑顔。アイスクリームを食べて、愚痴を聞いてもらって。そうしたら、偽物の“トモダチ”の事なんて、きっと気にならない。
〈end〉
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