第四章 カノジョの未来、彼女の願い

43/54
前へ
/158ページ
次へ
 妙子の家は、重い空気に満たされている。  茂と楓は、妙子がいないことに気づくとあちこちに電話をした。その返信を待っていた。そんな時だった。  ソファに座って、うなだれるようにしていた茂が、ぎくりと体を強張らせた。  隣りに座っていた楓も、なにかを感じ、思わず両手を下腹部に添えた。そこには新しい命が宿っている。 (え、妙子ちゃんが・・・)  確かではない。  けれど、遠くで気配が消えたような感覚に、二人は襲われた。   ☆  ☆  ☆  水沢の涌井神社の社殿で、祖母とともに祝詞を唱えていた泉美(いずみ)は愕然とした表情を浮かべ固まった。手に持っていた鈴を振ることもできない。  鋭く走った胸の痛みと、大きな喪失感に襲われたのだ。 「ああ・・・」  涙も出ない。 「たえ、妙子が・・・」  シャン。  貴和子が鈴をひと振りした。  その澄んだ音で、泉美は我に返った。 「・・・お祖母ちゃん」  貴和子は泉美を一瞥し、ゆっくりと頷いた。緑郎(ろくろう)も、泉美と同じように、悲しみに満ちた表情のまま、貴和子を見つめている。  シャン。  貴和子は目を閉じると、鈴を振る。しばらくそうして鈴を振った。  目を開けた。  だが、を見ていない。遠くどこかをさ迷うように、焦点があわず、意識もにないような雰囲気だった。  シャン。  鈴が鳴る。  貴和子は、呆然としたままの泉美に視線を向け、次に緑郎のほうを見た。 「緑郎」 「は、はい」  貴和子に鋭い声で呼ばれ、緑郎は背筋を伸ばした。そして貴和子の指示に従うため、外へ出て行った。   ☆  ☆  ☆
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加