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妙子の家は、重い空気に満たされている。
茂と楓は、妙子がいないことに気づくとあちこちに電話をした。その返信を待っていた。そんな時だった。
ソファに座って、うなだれるようにしていた茂が、ぎくりと体を強張らせた。
隣りに座っていた楓も、なにかを感じ、思わず両手を下腹部に添えた。そこには新しい命が宿っている。
(え、妙子ちゃんが・・・)
確かではない。
けれど、遠くで気配が消えたような感覚に、二人は襲われた。
☆ ☆ ☆
水沢の涌井神社の社殿で、祖母とともに祝詞を唱えていた泉美は愕然とした表情を浮かべ固まった。手に持っていた鈴を振ることもできない。
鋭く走った胸の痛みと、大きな喪失感に襲われたのだ。
「ああ・・・」
涙も出ない。
「たえ、妙子が・・・」
シャン。
貴和子が鈴をひと振りした。
その澄んだ音で、泉美は我に返った。
「・・・お祖母ちゃん」
貴和子は泉美を一瞥し、ゆっくりと頷いた。緑郎も、泉美と同じように、悲しみに満ちた表情のまま、貴和子を見つめている。
シャン。
貴和子は目を閉じると、鈴を振る。しばらくそうして鈴を振った。
目を開けた。
だが、ここを見ていない。遠くどこかをさ迷うように、焦点があわず、意識もここにないような雰囲気だった。
シャン。
鈴が鳴る。
貴和子は、呆然としたままの泉美に視線を向け、次に緑郎のほうを見た。
「緑郎」
「は、はい」
貴和子に鋭い声で呼ばれ、緑郎は背筋を伸ばした。そして貴和子の指示に従うため、外へ出て行った。
☆ ☆ ☆
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