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水の中に取り込まれたのに息苦しくない。
でも、流れが激しく、もみくちゃにされる。
妙子の腕を、しっかり掴む。引き離されないよう、肩を抱いてくっつける。
もう、絶対、ひとりで行かせない。
八王子と妙子は、一塊になって激流に翻弄される。
八王子は、腕の中の妙子の様子を確かめようと、なんとか薄目を開けた。妙子の長い髪が視界に入る。
ちゃんとしがみついているだろうか。水に飲み込まれる直前、母親となにを話したのだろうか。
いろんなことが、渦巻く水と同じく頭の中をよぎっていく。
妙子が、目を開けた。八王子の顔をついと見上げる。
真っ直ぐに。
妙子を、初めて意識した頃と同じ、深い目。深くて暗くて、強い、妙子の目。
(妙子・・・?)
妙子がふいにほほ笑んだ。
「え?!」
そのキレイな笑みに、一瞬見惚れた。その隙を突く形だった。
妙子が八王子から体を離したのだ。
「ありがとう、八王子、来てくれて」
「ったえ・・・」
八王子は、もう一度妙子の腕を掴もうとしたが、かわされた。
バランスを崩した八王子の体を、妙子はそっと押した。
「あなたはそっち」
八王子は妙子に押されて、さらにバランスを崩した。妙子が視界から消える。
無情にも、あっという間に流され、妙子がどこにいるのかわからなくなってしまった。
(妙子っ、なんでっっ。妙子、妙子、妙子ーーーーーーっ)
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