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彼の本音
最近の俺は、退屈だ。
大学進学で地元を離れ、一人暮らし二年目。生活にも随分と慣れて、時間をもてあますことが増えた。
その日は休日にもかかわらずオーナーの都合で急きょバイトが休みになり、予定があいてる誰かしらと遊ぶつもりで連絡をとったら全滅、というハンパなく暇な日だった。
べつにいいけど。一人でいるの嫌いじゃないし。趣味、散歩だし。今日だって絶好の日和だし。
昼ちょい前に起きたあと近所の定食屋でメシって、腹ごなしついでに公園まで足をのばした。
ベンチに座って、なにげなく芝生広場のほうを眺める。秋風が気持ちいい午後。みんな楽しそうにしてるなか、女の人が膝をかかえて座っていたのが目にとまった。
外見は普通。地味すぎず派手すぎず、こざっぱり。とくべつ目立つようなところはない、はずなのに、縫いつけられでもしたみたく目が離せない。
あ、寝転がった。……動かない。……大丈夫か?
無性に気になって声をかける。といっても、そのときは心配よりも暇つぶしにでもなればって気持ちのほうが強かったから、泣いてたのが判明してからは焦りまくり。
とにかく落ちつかせるために事情を聞いたりしたけど、そんな悲惨なこと立て続けにおこるのか? って内容で。
でも、気分転換に連れていった神社で必死に願掛けしてるのを見て、話盛ったんじゃなさそうなのがわかって。疑って申し訳なかったのと、そんな嫌なことあったのに誰のことも悪く言わないのが健気で好感がもてた。
それに、どうってことない日常の景色を――たとえば道すがら、駐車場の入口でうたた寝する猫とか、絵と文字が噛みあってないシュールな看板とかを見たとき、まるで宝物でも発見したみたく静かに喜んでて。その横顔を見るたびに俺も、心の奥で迷子になっていたものを探しあてたような気持ちになった。
この人、優しい人なんだろうな。だから傷つけられたり、損ばかりしてるんじゃないか。そんなふうに思ったら、がぜん肩入れしたくなった。
だから、かもしれない。夕方になって解散。小さくなっていく後ろ姿を見てたら、頭で考えるよりも先に体が動いたのは。
自分でも、引きとめるなんて思ってなくて驚いた。当然、むこうも呆気にとられていた。
「えっと、俺も楽しかったから、あらためてお礼がしたくて」
とにかくなにか理由を、と口にしたらきょとんとされて、さらにパニック。
「いや、その、おすすめの貰ったし。だから、それのお礼っていうか。貸し借りなし的なわけじゃないけど、俺もおすすめ教えたいし」
なに言ってんのか自分でもわかんなくなってきた。あきらかに相手が困惑してるのも見てとれて胸が痛んだ。この人に迷惑をかけるのは、できるだけ避けたかった。
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