彼の本音

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 もともと俺がランチをおごる話だった。なのに、 「やっぱり今日は私がごちそうするよ。お世話になったのは私だし」  なんでそんなこと言うんだろう。俺が年下だから? だとしたら、なんか納得いかない。 「こういうときは遠慮されないほうが嬉しいんだけど。誘ったのは俺だし、お菓子のお礼でもあるんだから」  その人の眉が困ったように下がり、ややあってためらいがちに「はいりやすくてリーズナブルで、お腹いっぱいになれるとこ」と答えがくる。さらに納得がいかず、大人げなくムキになってしまう。 「もしかして俺が学生だからその条件? お金の心配とかしてくれてんの? 気にしなくていいよ。バイトもしてるし」 「いや、えっと、そうじゃなくて。なんていうか、一人でも行けるようながっつり系のお店を開拓したいから、もし知ってたら教えてほしいかなぁって」  恥ずかしそうに言葉じりを濁す。てことは……それってつまり、今現在そういう場所に一緒に行くような彼氏とかいないってことだよな!  我ながらゲンキンなことに、いっきに上機嫌。さっそくリクエストにこたえるべく頭をフル回転させる。  このあたりにある、一人でもはいれてリーズナブルながっつり系。それでいて、まちがいなく「一番うまい!」と自信をもって言えるのは……。 「じゃなかった、かも」  箸をとめて呟く。むかいに座るその人は、不思議そうに首をかしげている。 「がっつり系でも、もっとキラキラしてるようなとこが好きだよね、たぶん」  ここしかないって自信満々でたまに行くラーメン屋に案内したけど、考えてみたら、がっつりメニューもあるカフェ的なとことかのほうが女の人は一人ではいりやすいよな。  あーあ、こういうとこがダメなんだろうな。高校のとき、つきあってた子に「女心がわかってない」ってふられたトラウマがうずく。  気がきかないって思われたかな。しょせん学生じゃこんなもんって呆れられたかも。この人にかぎってそんなこと思ったりしなそうだけど、それでも。  ネガティブな想像ばかり膨れあがる。けど予想に反して、目の前には疑いようがないほどの眩しい笑顔。 「そんなことないよ。すっごく美味しい。チャーシューも絶品。教えてくれてありがとう」  再度、気持ちが持ちなおす。下がったり上がったり忙しい。俺、自覚してたより単純だった。 「そう、ここの最高なんだよ! とろっとろでボリュームあって」 「お店も。明るい雰囲気だから、私一人でも来られそう」 「わかる。カウンターも窮屈じゃないから座りやすいし。それもあってイチオシ」
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