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部屋に入るとすぐに西園寺の姿が目に飛び込んできた。 今日もスーツをしっかりと着こなしていて男らしい。 「マツバ」 爽やかな笑みでマツバを手招きする西園寺の姿に頬がじわりと熱くなる。 彼の笑顔は何度見ても心臓に悪い。 「西園寺様、ようこそお越しくださいました」 マツバは三つ指をつき頭を下げた。 待ち侘びていた事を伝えようとした時、綺麗に揃えた太ももの内側に違和感を感じてしまい思い出してしまう。 言わなければ… 下着の質感が、その中のつるりとした肌が、マツバを急かすように主張してくる。 ズルズルと引きずってしまったらますます言い出し難くなってしまうのはわかっていた。 しかし、さっさと言ってしまわないとと思う一方で、会って早々話す内容ではない気もしていた。 いきなりそんな話をされても西園寺だって困惑するだろう。 こういうのはタイミングが大事なはずなのだ。 しかしどのタイミングで切り出せばいいのかはまったくもってわからなかった。 「お注ぎします」 手酌で飲んでいた西園寺の盃に酒の入ったお銚子を傾けようとする。 しかしすぐに遮られた。 俯いていた顔を持ち上げられ、捉えた顎の下を指の腹で撫でられる。 「どうした?浮かない顔だな。いつもみたいに俺に会えて嬉しいと言ってくれないのか?」 西園寺がいたずらっぽく瞳を細めながら訊ねてきた。 「あ、も、申し訳ございません」 慌てて謝ると、西園寺はははっと軽快に笑った。 「冗談だ、気にしなくていい。それより酒はいいから少し膝を貸してくれないか。今日は頭の固い年寄りに散々付き合わされてね、少し疲れた」 珍しく疲労を口にした西園寺にマツバはハッとした。 笑顔はいつもの西園寺なのだが、ほんの少しやつれて見える。 心なしか顔色も悪い。 これまで何度も西園寺と会ってきたというのに、すぐに気づく事ができなかった自分に呆れてしまった。 彼は想い人でもあるというのに…。 「あ…気遣いが足りなくて申し訳ございません…」 「だから謝らなくていいと言っているだろ?いいから膝を貸してくれ」 謝るマツバの膝に半ば強引に西園寺が寝転がってきた。 ハンサムを絵に描いたような顔に下から見上げられて、たちまち心臓が跳ね上がる。 切れ長の瞳を眩しそうに細めた西園寺がマツバの結わえた髪を指先で弄んだ。 「心地がいいな。こうしてると疲れが吹き飛ぶ」 「本当…ですか?」 「あぁ、毎日こうしてもらえたら俺は疲れ知らずの男になれそうだ」 毎日…という言葉に胸が高鳴った。 毎日こうやって膝枕をしてあげる事ができたらどんなにいいだろう。 今は週に一度きりしか会えない客と男娼という関係で、マツバは客を悦ばせる事が仕事だ。 望まれれば他の客にもこういう事をする。 しかし、もしもここを出て西園寺と二人で暮らす事ができたら… マツバは西園寺のためだけに尽くす事ができる。 そんな毎日が訪れたら幸せ過ぎて寿命が縮んでしまうんじゃないだろうか。 想像するだけで物凄く贅沢な毎日だ。 「ところで…」 あれこれ想像して惚けていると、髪を弄っていた西園寺の指先が止まった。 「今日は下着をつけているな?」 マツバはドキッとしながら西園寺を見下ろした。 穏やかだった瞳の色が、ほんの少し威圧的なものに変わっている。 どうしてわかってしまったのだろうか。 膝枕の感触だけで? 思わず言葉を詰まらせてしまったマツバを見上げながら、西園寺が深く溜息をついた。 「:また|他の客に穿かされたままで来たわけじゃないだろうな?」 「ち、ちがいます…」 マツバは慌てて否定した。 以前、他の客の好みの下着をつけたまま西園寺に会ってしまい散々な目にあった事があったからだ。 タイミングというならきっと今だろう。 ちゃんと言わなければ。 きちんと説明すれば西園寺だってわかってくれるはず。 そう思うのに、喉のどこかで何かが引っかかってうまく言葉が出てこない。 「あの…っ…っ」 もごもごと口籠もるマツバに痺れを切らしたのか、西園寺が無理矢理着物の裾をたくし上げてきた。
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