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「あっ…っ待ってください」 マツバは咄嗟にその手から逃れた。 まずは先に話をしておきたかったからだ。 しかし、逃げてしまった事が逆に気に触ってしまったのか西園寺の眉間の皺が深くなる。 「どうしてだ?やましい事でもあるのか?」 「そういうわけでは…でも…あの」 「ないならいいだろう?それとも俺に触れられるのが嫌になったのか?」 穏やかな口調ではあるものの、力のこもった眼差しに見据えられてマツバは畏縮しながらも答えた。 「違いますっ…!」 「だったら自分で広げて見せてくれ」 「えっ…?」 「やましい事がないならできるだろう?」 さっきまでの和やかなムードから一変、張り詰めた空気が部屋の中をいっぱいにする。 有無をいわせない西園寺のオーラに負けて、マツバは唇を噛みしめると足を崩した。 着物の裾を割り、下着姿を自ら晒す。 といっても、男性物の下着なのだが… しかし今日はいつもと違う。 下着の下には剥き出しの肌が隠されているのだ。 凄まじい羞恥心に襲われて、マツバは思わず顔を逸らした。 「色気のない下着だな」 西園寺はぼそりと呟くと、何の躊躇いもなくウエスト部分から手を差し込んできた。 驚いたマツバは慌てて制止を訴える。 「あっ…待って…」 しかしすでに手遅れだった。 不意にその手の動きが止まると、何かを確かめるように:弄(まさぐ)りだす。 あぁ…知られてしまった。 この世の終わりかのような気持ちに襲われて、マツバは思わず両手で顔を覆った。 「どういう事だ?」 案の定、不快を露わにした西園寺に訊ねられる。 「あの…っ、申し訳ございませ…」 「俺が聞きたいのは謝罪じゃない。誰にされたんだ?いつだ?」 畳み掛けるように問い詰められて、マツバは必死に答えた。 「先日…お、お客様にです」 「ここは…客にそういうことまで許してるのか?使ったのは刃物だろう?電子機器さえ持ち込めないのに、刃物はいいなんて矛盾してるぞ」 「あの…お客様の方からどうしてもとお話があったみたいで…」 客はいつもマツバを贔屓にしている上客の男だった。 後から聞いた話なのだが、その男から楼主直々に話があったらしい。 マツバのあそこの毛を剃りたいと…。 客と楼主の間でどんな取り引きが行われたのかは全くわからないが何をされても口答えはしない事、決して粗相のないようにと念を押されたマツバは、従うしかなかったのだ。 「あの…」 西園寺を見上げながらマツバは思い切って口を開いた。 「み、みっともない姿ですけど…っ、どうか嫌いにならないでください」 言ってしまった後で、じわりと目頭の奥が熱くなってくる。 嫌われてしまっても仕方ないとはわかっていてもやはり辛くて、思わず縋るような事を言ってしまった。 これじゃますます嫌われてるしまうかもしれない。 ハラハラとするマツバを見下ろしていた西園寺の目が僅かに見開く。 しかし、すぐにスッと細められた。 「俺が…そんな事でお前を嫌うはずがないだろ?」 西園寺の言葉にマツバはホッと胸を撫で下ろす。 安堵でまた視界が滲んだ。
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