真白に魅了されし者

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 幹も枝も休める落葉樹の下で、白いワンピースを纏った女が佇んでいた。  したしたと雨が注ぐ夜も遅い晩のことであった。  近道である小さな公園へ足を踏み入れた彼は視界に入ったが最後、その女に釘付けられた。  公園には芝生といくつかの遊具、ベンチ、隅に大きな落葉樹が一本ぽつんと植えられている。  鮮やかに色付いた葉が落ちきり寒々としはじめた季節のことであった。  儚く消えてしまいそうな朧げな線の細い身体に水分を十分に含んだ白いワンピースがぴたりと張り付き、しかしそんなことなど気にせずに女は切なげな様子で雨空を見つめている。  美しかった。足を止めて、長いこと恍惚として彼は女を見つめた。儚さが日常では得難い幻想さを醸し出し、幻想的故に消えてしまいそうな恐れを彼は抱きはじめた。  衝動に駆られて近寄り、そっと彼は傘を差し出した。 「お貸ししましょう。風邪を召されてしまわれる」  彼がそう告げると、女は首を振った。 「傘など無意味。何の役に立つというのかしら」  彼女から発せられた言葉は艶やかな清らかさを伴い彼の脳裏に焼き付いた。  彼女は彼に去ってほしいと願わなかった。だから彼は見知らぬその女の隣に寄り添い見守ることにした。  間近で見た切なげな瞳を湛える彼女の顔付きは淑やかな気品があり、どうして彼女がこんな場所でこんな時間に雨に打たれて立ち尽くしているのか、彼には計り知れない。  水分により透けるような白いワンピースも高価な素材が使われていると見受けられる。  白いワンピースには汚れひとつ見当たらなかった。  無意味だと女が言った傘を彼は彼女の頭上に差し出したまま、しげしげと見つめていた。彼女はまるで彼の存在など気にしている風がない。  女は「傘は無意味」と言ったのに文句の一つも言わず、彼が差す傘の下、変わらず空を見つめ続ける。  傍にいることを受け入れられていると彼は勝手に受け取った。何も女が言わないから、彼は自分の欲求に従った。
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