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漆黒の髪と漆黒の瞳、白いワンピース、黒も白も際立つ。
ふと足元に視線を落とすと、女は裸足であった。
怪訝に思いながらも、完全に女に魅了されしきっている彼は何も聞かず、恍惚とした気分と眼差しで彼女の姿に魅入っていた。
その素足すら、彼女の神秘なる美の一部として彼の瞳は捉えはじめ、怪訝さなどすぐに拭われた。
綺麗に整った素足からすらりと色の白い脚が伸び、太腿に張り付く白いワンピースは妖艶さやエロティシズムを感じさせない崇高な美が漂っている。
じいっと目を凝らして空を見つめる女の横で、じいっと目を凝らして美しい彼女を見澄まし見惚れ見つめる。
濡れきった艶やかな髪から時折、涙を零すように水滴が落ちる。
居た堪れなくなり、彼は女の手前にハンカチーフを差し出した。
女が安手の男物のそれを手にすることはなかった。
次第に雨足が強くなってきて、傘は本当に無意味と化した。
女が動こうとしないから、彼もその場で雨に打たれ続ける。
ごうと風が吹き荒ぶ。
傘が吹き飛び、壊れてしまった。女が言った無意味な傘は、正に無意味なただの物体と化した。
この時、空を見つめる女にも、女を見つめる彼にも、豪雨も強風も何もかもが些細なことであった。
彼はこんなにも美しい女性を、光景を、目にすることは初めてであると感じ、女が自分へ絶対的な拒絶を示すまで、彼女の傍から去るという選択肢を持てなかった。永遠を望むように。
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