真白に魅了されし者

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 月明かりとは思えぬ眩い光が昼間のように深い夜空から注がれ続ける。  太陽ほどではないが、視界がしっかりと通るほどには明るい。  夜とは思えない神秘的な光景に彼は目を奪われた。  少女はこの光景が当たり前だというように微笑みを絶やさない。 「これを待っていた……」  少女が呟く。辺りに清らかな声が響き渡る。  やはり彼へ投げかけたわけではなかったようだが、彼女は初めて彼の方へ顔を向けた。  清らかに婉然と神秘性を灯した漆黒の瞳が、柔らかく彼の瞳を捉えた。  少女は彼の目をじいっと見つめる、視線を離さない。  それは少女と化す前の女がじいっと夜空を見つめていたそれと同じだった。  突如、柔らかな少女の微笑みに儚さが零れた。  彼はこの後何が起こるのか何故か予測が付いてしまった。  待ってほしいと少女のか細い腕を掴みたければ、抱きしめてしまいたい。  しかし、少女の醸す崇高さが彼の行動を止めた。出来なかった。触れることは憚られた。  神秘を手にその崇高な美は触れてはいけないものだと本能が訴える。 「貴方のおかげで、待ち遠しいもどかしさに耐えられた」  そうして少女は一言、「さようなら」と告げた。  永遠の別れだと男は感じとった。  しかしこの邂逅をひと時の幻想として終わらせたくはなかった。  彼の心は永遠の別れを拒絶した。  白いワンピースは雨に濡れて彼女の身体にぴたりと張り付いていたのに、ふわりとふくらみを持ち靡いた。  輝く真っ白な汚れなきワンピースが舞う。  途端、彼は目眩のようなものを覚え、急激に襲った眩さに頭がくらりとした。  一瞬瞑ってしまった目を開き、視界がはっきりすると、少女は忽然と消えていた。    切なさに視線を地に落とすと、輝くような何かが落ちている。  先程までの眩い明かりはもう無く、暗闇が訪れた中、鮮明な一つの何かが落ちている。  彼は一抹の期待と共に屈み込み、それを覗き込んだ。  濡れを知らない汚れなき真っ白な絹のハンカチーフがふわりと落ちている。  拾い上げ、彼はじいっと白いハンカチーフを見つめた。  ここから彼の三年間の旅は始まった。  このハンカチーフを元に、一度で構わないのだ、あの少女の儚い微笑みを再び得るために。  そうして雨の降る様々な地を巡り歩く。  このハンカチーフに込められたものが、感謝ではなく、再会の意味であると信じて。
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