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9/12(木)
人間は誰しも、二面性を持つ者だと俺は思う。愛想のいい理想の上司と噂されるアイツは人を殺して絶頂に達する変態だし、勤勉な科学者は今日も死体を運び込んでは蘇生せんと試みる。
勿論俺にも二面性はある。表向きはどう思われているか知らないが、仕事の関係で俺と食事に行った奴は大抵目を丸くする。実際のところ、他人からすれば俺は見た目に反してかなり食う方らしい。所謂次郎系ラーメンを二杯食いデザートに炒飯を食っていたら、同席していた奴があきれ顔で言っていた。しかしまぁ、俺の二面性なんてそんなものだ。
そして、大半の人の二面性、その裏側を簡単に見られる場所に、俺は今日来ている。
「朝飯に居酒屋はどうかと思うんだが、イア」
「この時間に朝飯食べる方がどうかと思うんだけどねぇ、グラトニー」
時刻は七時。俺にとっては朝、世間一般にとっては夜。一般人は明日も仕事があるからか、居酒屋はそれなりに空いていた。
「というかそれ朝飯の量なんだ……」
「いや、今日は豪勢にいってるからいつもよりちょっと多い」
ちょっとねぇ、とイアが苦笑する。焼き鳥をメインとしている店らしく、テーブルの中央には様々な焼き鳥を乗せた大皿が鎮座する。その横には手羽先、串揚げが並び、俺の手前には冷奴とご飯が三つずつ。イアの横には生ビール、俺の横には烏龍茶がそれぞれ冷や汗をかきながら一口目を待っていた。
「お待たせしました~」
「お、これで全部だな」
「まだ来たんだ……」
最後の唐揚げが来たのを確認してから俺はグラスを掲げる。イアの口からやる気のない「かんぱ~い」という声が零れた。
「どうした、食う前から腹いっぱいみたいな顔して」
「実際そうだからね」
そう言ってイアは手羽先と串揚げを手元に引き寄せる。俺は大皿を左に配置、白米と冷奴を右にと完璧な布陣を用意し、早速適当に選んだ一本にかじりついた。
「んまい」
「あっ、冷奴ってご飯の代わりなんだ」
肉を咀嚼しながら冷奴をかきこむ俺に、イアが半ばあきれ顔で言う。白米だけでは飽きるので、いつのまにか大体冷奴やカリフラワーなど白米の代理が出来る食品も一緒に用意する癖がついていた。
「……ねぇグラトニー、手羽先食べない?」
「食べる」
半分ほど減った手羽先の皿が押し付けられる。俺は食い終わった皿をよせ、唐揚げと手羽先を近くに引き寄せた。
「よくそんなに食べて太らないね」
「昼時のOLか」
何故だかわからないが、俺はどれほど食っても太らない体質らしい。食わないからと言って体重が減りはしないが、大量に食っても増えはしない。ヴィクトールとかいう科学者曰く、幼少期の諸々が何か関係してるかもとのことだった。それ以上詳しいことはとりあえず開かなきゃわからん、と言われたので丁重にお断りしている。
「あーあ、僕もうお腹いっぱい! お支払いはグラトニーでいいよね?」
「お前もしかして奢らせるために俺を呼んだんじゃないよな?」
俺の問いに、イアはペロリと舌を出して答えた。
「お、グラトニー! いいところに帰ってきたな」
「なんだ。俺の腹は開かせんぞ、ヴィクトール」
帰宅と同時に部屋から白衣の男が飛び出してきたので、避けるついでに足をひっかける。しかしそれは相手、ヴィクトールも予想していたようであっさりかわされた。
「チッ」
「わかりやすく舌打ちするな。これやるから元気出せ」
そう言ってヴィクトールが渡したものを見て、俺は思わず息をのんだ。先ほど腹いっぱい食べたばかりなのに、なんだかまだ入る気がしてならない。これが別腹と言う奴か。
「感謝する!」
俺の言葉にヴィクトールは笑顔で応え、イアは「まだ食うのか」というあきれ顔で応えた。
キッチンへ駆け込み、準備を開始する。人参、ジャガイモ、玉ねぎもある。あとはレトルトのルーを用意し、手順通りに火にかけるだけ。ふわりと漂ういい匂いに、俺は思わず頬を緩ませた。
「おはよ~……あれ? グラットも今から朝ごはん?」
ふらふらとレヴィがキッチンに入ってくる頃には、料理は完成していた。
「食うか?」
「食べる。なにこれ?」
食べると決めてからそれをきくか、と思ったが、レヴィは大抵料理名を告げたところで拒否はしない。俺はいつにない満面の笑みで応えた。
「赤ん坊の肉を使用したシチューだ。これは滅多に食えないぞ!」
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