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9/16(月)
先日、好きなものを聞かれた。職場のちょっと可愛い女の子に。別に自慢でも何でもない。ただこの話をした時にヴィクトールが「誰に?」と聞いてきたから「この前セクハラ被害に遭った、割と可愛い女の子」と言ったら嫌そうな顔をしていたから喜んでそう付け加えているだけだ。
話を戻そう。私の好きなものは多々ある。ホラー映画、殺人、ミステリードラマ。しかしそのどれもが私にとってはR18な目的で使うコンテンツ、もっと生々しい言い方をすればオカズに使うコンテンツだ。それが一般的にはまだ許される趣味の範疇としても、流石になんか「今どきの若い子が知らない単語を使ってセクハラするじじい」みたいで嫌になる。私はまだじじいじゃない。34はまだ若い。きっと。おそらく。
脳筋のミニ四駆並に脱線し続ける。結局その時はテキトーに「秘密、でいいかな?」と誤魔化しておいた。オチはない。これがオチだ。私は未だに、あの時なんて言えばよかったのかがわからない。多分、永遠にわからない。
「そう? ロトはてっきりラーメン好きだと思っていた」
「私が? どうしてそう思うのさ、イア君」
公務員に祝日など無い。嘘。今日は所謂休日出勤だった。昼飯はラーメンでも、と職場近くのラーメン屋に行くと、たまたま休みだったイアに遭遇。時間もあるからと最後尾にいたイアの後ろに並びなおしたのがつい二十分ほど前のこと。
「いや、なんかよくここ来るって言うから」
「職場に近くて安いってだけで来てるからね。本当にラーメン好きなら、君のことは無視して一人でそそくさと食べてたよ」
そして注文を終えたのが五分前。この店は出すスピードの速さにも定評があり……なんてことを書いてあるポスターをイアが読み終わる前に、ラーメンが運ばれてきた。
「うわっ、本当だ速い」
どん、と無愛想に置かれた味噌ラーメンを引き寄せ、割りばしをパチンと割る。今日は良い感じに割れた。いざ実食、と丼の上に顔を向けると視界が一気に白くなる。が、これはいつものこと。私は冷静に苦笑しながら、中途半端に割れた割りばしを睨んでいるイアを呼んだ。
「見て見てイア君。白目」
「そんなので笑うの、レヴィ君ぐらいだよ」
「レヴィは普通に心配しておしぼりくれたよ」
「既にやったんかい」
眼鏡を外すと視界は一気にぼやける。慣れた手つきで取り出した眼鏡拭きも、まったく模様がわからない。雑に湯気をふき取ってから再び眼鏡をかける。視界良好、とはいかないがラーメンを食べるくらいはできるだろう。
「僕が拭いてあげよっか?」
「何を? 私の尻を?」
「どんな変態プレイさせるんだい。眼鏡だよ、眼鏡」
別に尻を拭くのは変態プレイじゃなくて介護だと思うんだが、という言葉を飲み込み、私は彼に眼鏡と眼鏡拭きを渡した。仮にも納棺師、しかも視力は良好と来たもんだ。私よりかは綺麗に拭いてくれるだろう。
一分ほどでイアは「はい」と眼鏡を返してきた。さてどんないい感じに仕上がっているだろう、と眼鏡をかける。私の視界は、未だ無駄に曇っていた。
「へっへーん。指紋べたべたドッキリ大成功ー!」
指紋越しに見える腹立つイアの顔面を、私は彼の後頭部を掴み、熱々の塩ラーメンへと押し付けた。
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