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『俺の稼ぎだけで生活して、美味しいものを毎日食べさせてくれる女性を嫁さんにしたいと思っていました』
初めて群司さんと逢ったあのお見合いの日。群司さんは私にそう言った。
(わ、私……なんてことを!)
「茜……茜ぇ……」
「群司さん、ごめんなさい!」
「!」
「私……私、馬鹿だった! 群司さんのためにと思っていたことが本当は見当違いだったんだってことに今、気がついた!」
「……茜?」
「私、群司さんのために何か出来ることはないかってずっと考えていたの。毎日忙しい群司さんを少しでも楽にさせてあげたいと思って……だから私も働いてお金を稼いだら仕事のペースを落とせてもらえるかなって考えて父に仕事を紹介してもらおうと思ったの」
「……」
「工場の件は……あの、確かに昔のお見合い相手の伝手で頼んだけれど……その人は私を外見で断った人じゃなくて本当に私の幸せを願ってお見合いを断った人で……あの人のお蔭で私は群司さんと出逢えて今のこの幸せを手に入れられた訳で、決して変な気持ちで接した人じゃなくて!」
「あ、茜……もう少し……落ち着いて、喋って」
「え?」
「中が……腹圧がかかって……ちょっと」
「……」
群司さんが少し辛そうにしているのはどうしてだろうと、よく解らなかった。
私の上から退いた群司さんはため息をひとつついて胡坐をかいた。
「……茜、話、ちゃんと訊かせて」
「……はい」
私は独りよがりに考えていたことを恥ずかしく思いながらも包み隠さず全てを話すことにした。
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