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魔導者新聞~我々を導き流れるものとは~
____今やこの世界においてヴァンパイアと人間の均衡はまったくもって切り崩された。
今のヴァンパイアたちにとって人間の存在は餌であり、食糧であり、それはある種、愛玩動物であろう。
これは、私の見解である。
かつて、人とヴァンパイアの関係性はとても分かりやすかった。
今となっては、この関係性のほうがどれほど人間にとって良かっただろう。
ヴァンパイアは人間を襲い、生き血をすすらなければ、生きることはできない。
人間は生きるために、彼らと戦うほかない。
互いの生きるための誠実で普遍的な理由がそこにあった。
人とヴァンパイアは決して相容れないのである。
捕食者、被捕食者の関係性を互いが理解し、どこか尊重のようなものがあった。
少なくとも、人間の一部はその暗黙の了解を守っていた。
人間のなかでもその身に魔力を持ち、ヴァンパイアに限らず魔物を調伏する者たちは、彼らと自分たちの狭間にある揺らぐ、神聖な摂理の糸を、ひと際大きく感じ取っていた。
我々、魔導を学ぶものたちは先人からヴァンパイアと人の関係において、切ることのできない信頼の連鎖と教えられた。
知に富む者は既に知っているだろう。
彼らは戦いのなかで人がヴァンパイアに殺されることも、暗黙の根底に受け入れていた節がある。
殺され、死ぬことは、生きるためだ。
もしもそこで命を落としてしまったのなら、それは落としたのではなく、相手に命をゆだねたということだ。
“次の命に次の力と次の運命を与えん”
我々の持つ魔導の輪廻を指した、有名な言葉だ。
この次の命とは、すなわち己の命をゆだね託した者、ということであり、その者を信じて生きよ、という意味になる。
言い換えれば、たとえヴァンパイアに殺されようとも、そのヴァンパイアの血となり肉となり、彼らを信じよという意味になる。皮肉な話だ。
さて、最近『ヴァンパイアによる血の選定基準』が巷で話題になっている。
その基準がいったいなんなのか、ヴァンパイアではない我々には見当もつかないが、私は、我々の身体に巡る血とは別の“何か”が彼らの本能を呼び覚ましたのではないかと推測している。
我々魔導者が一般人以上に彼らにつけ狙われる理由に、この教えが何らかのヒントになるのではないかと...。
今のヴァンパイアたちと人間との間に誠実な関係性などない。
不必要に数多くの人間を殺し、挙句の果てには気に入っためぼしい人間を大量に攫って家畜や奴隷のごとく扱っているという事案もある。
我々、魔導者もその例外ではない。
魔導の輪廻は、魔導者が在る限り、続いてゆくだろう。
だが、私の輪廻は私が決める。
次の命よ、次の同士よ、揺るがぬ己の魔導を信じよ。変わらずに変われ。
レオナルド=K=シャムロック
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