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□ 午後5時ごろ。わたしは講義が終わって渡り廊下を歩いていると、学院の広間のほうが騒がしかった。 白の隊服。金糸のラインが入ったマントの上から揺れる、丁寧に結われた長髪。 長らく姿を見せていなかった、白騎士科のジェイド=クロフォードの後ろ姿が見えた気がした。 「……わ」 しかもおとぎ話のヒーローよろしく、そのジェイドは女子生徒を抱きかかえている。 とても目立つ。目立つから、彼だ。 ふいに立ち止まり、少し離れてしまった。 〝彼女たち〟は訝しく思ったのか、わたしを見て、その目線の先を辿る。 「まぁ!あの後姿、ジェイド様じゃないですの!」 「え!?ジェイド様ですって!」 「シオン様~、ジェイド様はいつの間にお帰りになられていたの!?」 「もう少し戻られるのはあとになると、わたくしのお父様は言っておりましたわ!」 「…わたしも、今…気づいて…」 久しぶりのジェイドの姿に、彼女たちはちょっと大袈裟なほどに目を開いて興奮している。 わたしも、びっくりしている。その頬を染めるほどの関心はないけれど。 でもちゃんとびっくりはしているから、良いと思う。 「…あの女子生徒、誰です?」 「あら、本当だわ。何か抱きかかえてると思いましたら」 「あれはあのときの。ほら、風船女。」 「まぁ!!風船女って…」 「嫌ですわ、ジェイド様ったらあんな子…」 うふふふ。クスクスクス。 上品でお嬢様らしい笑い方。淡くリップを塗った唇たち。 色とりどりのお口がパクパク開く。清くらんらんと。お花のように。 わたしはお花に囲まれながら、ぼんやりと立ち尽くして、眺める。 「ジェイド様は本当に心のお優しい方ですわね」 「お相手がどんな身分であっても、接し方は平等でいらっしゃいますもの」 「ねぇそうでしょう?シオン様?」 え? 「たしかに…そのとおり、ですわ」 平等かも、しれない。 誰にでも向けるあの清廉な笑顔は、まったく同じ。同じ顔だ。 「あの子、また顔が膨れないと、いいな…」 「まぁ、シオン様ったら!どういう意味ですの~うふふふっ」 「もう~行きましょう?」 この前、いっしょに買ったお揃いのブランド靴をコンコンと鳴らして。 〝彼女たち〟の声は、移り変わりの早い軽快なピアノの音色のよう。 わたしも、ついていってみる。
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