最終列車

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本当にあなたは今、生きていますか? 『最終列車』 ピピッピピッピピッ…… 耳元でうるさく鳴り響くアラームを片手で止めると、時計は6時を指していた 窓からさしてくる日が眩しいと思いながら支度を始める クローゼットから洗濯したワイシャツを取り出して身につける スラックスを履いて、ネクタイはそのあとつけるようにとテーブルの上においた 洗面所に行き顔を洗うついでに無精髭を剃る いつも食べているパンを一枚食べようと冷蔵庫を開けるが、中には何も入っていなかった 「あれ、おかしいな…買っておいたはずなのに」 しかし時間も迫る 七時には家を出ないと会社に間に合わない 始業時間は午前九時 自分の住んでいるマンションから駅まではおよそ十五分 三十分前には余裕を持って着きたいからな…… 椅子においていたカバンを手に玄関から外に出た 会社にも購買はある、朝はそこで買おう 「おはようございます」 「えっああ、お…はようございます」 いつも道を通る時に玄関の掃除をしている女性に挨拶をする 挨拶をする方もされる方も気持ちのいいものだから でもあの人、少し歳をとったように見えた まあ女性に年齢のことを言ってはいけないというし、きっと気のせいだろう 改札口の列に並び胸元からいつものようにICカードを取り出そうとするも見当たらない 仕方なく一度列から離れて小銭で切符を買ってから再度並んだ 今朝から色々ないものがあったりする なんでだろう…疲れているのか? 電車に乗る 満員ではないもののそこそこに人はいる けどどうしてだろうか まるで一人取り残されたような気分になった 『次はーー駅。次はーー駅』 アナウンスがなる 停止した列車から人が降りて乗る …乗る人がいやに少ない 『ドアが閉まります』 カタン、カタン 列車が進む 俺は空いた椅子に座って外を眺めていた 後二駅後の場所が降りる場所だった 『次はーー駅。次はーー駅』 人が出る しかし入る人はいない 異変を感じて俺も降りようとするが座った場所から立ち上がることはできない 「なんだ、どうなってる!!」 『ドアが閉まります』 列車が走り始める 空の青がいやに目に刺さった 動き始めたら動くことができたので全車両を回るも誰もいない 車掌室にはいるみたいだがいくら声をかけても反応も何もなかった 『次はぁーーーえき。ーーーえき』 急いでこの列車から出ようとしたがその先、駅の様子を見て踏みとどまった 窓の外に見えた駅は暗くナニカが蠢いていた 本能的に後ずさる 『どアガしまり〼』 閉じられたドア いつの間にか空の色は暗く青い色に染まっている この列車はどこに向かっているのか ガタンと一際大きな揺れが襲う 立っていられずに床に手を着くと、ぴちゃ…と手が濡れる感触 ……水、だ 「一体どうなっている!何が…何が起きているんだ!!」 水かさは増している 膝下、膝上、腰と上がってくる水 車掌室の方へと水をかき分け向かった ガラス張りの扉をガンガン叩く 「おい!いるんだろう!俺を元の場所に戻せ!」 微動だにしない 「聞いているのか!元に戻せと言ってるんだ!!」 ぐるりと顔を後ろに向ける その顔はまるで能面のようにヒビの入った顔だった 「うわああああ!!」 『ドうせ、もう終ダヨ』 ごぽりと口から空気が溢れる いつの間にか水位は口元まで来ていた 列車はどこまでも進んでいく………どこまでも 『次はぁ……ーーー駅、ーーー駅…オオリノ人は、五順日オネがいし〼』 「ねえ、そういえば……私見たのよ」 「何を?」 「昔ね、あのマンションに住んでいた人がいたでしょう?あの爽やかな人」 「ああいたわね。確か、飛行機の事故で亡くなったんだったかしら」 「そうそう。海に落ちてねぇ……それでね。今朝玄関掃除していたんだけれど私見ちゃったのよ」 「…もしかして」 「ええ。おはようございますって。幻聴かと思ったけれど、後ろ姿が見えたからねぇ」 「一体なんだったのかしら。あの足跡は」
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