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先輩、無言。放送事故並みに、無言。あー、スリットから先輩が見えないのがつらい。めっちゃ怒ってる?それともいつも女たちをあしらうみたいに、冷たい目で彼氏さんを見下ろしてる?
「………えっ、えっ、ちょっ、ちょっと待って?何でお前、そんな泣いてんのっ?」
彼氏さんの焦った声。パタパタっと駆け寄る足音。は?なんかの聞き間違い?
「……お、俺を、置いていぐなよぉ!俺っ、毎日カレーでも文句言わないから!これから、ちゃんと、飯も作るし、家事もするからっ!頼むっ!お、俺を捨てないで…!」
えっ?これ、先輩の泣き声?わ、やべぇ。なんか聞いちゃいけないもの、聞いちゃった気がする…。
「あ、あのっ!あのなっ!?お前、なんでそんなに泣くのよ。ここはオレがかっこよく『お前の幸せを…願ってる』ってニヒルに笑って、理由も言わずにさらっと出てくとこ…。」
「何?俺の幸せって、何っ?おっ…お前がいない人生にッ、幸せなんて、どごにあんだよぉ!?う”ぁぁ~!」
先輩が床をゴスゴスと叩く音が響く。
「ひっ…こわ…いや、えーっと。ほら、オレがいたらさ、お前、上司のお嬢さんと結婚したり、シンガポールに一緒に赴任したり、できないじゃん?出世の王道、みすみす逃すなんてもったいないだろ?」
しどろもどろの彼氏さん。理由も言わずに出てくのが男の美学!とか言ってたのに、もう言っちゃった。
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