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「こっちは月曜から金曜まで必死に働いてんの。満員電車に揺られて仕事に行ってんの。職住一体で、ソファでゴロゴロしてようが、テレビ見てようが誰にも咎められないお前と違うから。くそ忙しいとか言って夜中に起きて仕事するんなら、昼間に効率よく働けよ。」
「それはっ!今、クライアントがロンドンだから時差があるって…はぁ、オレ、この話、何度もしてるよね。いい加減、くどかったよね。…………むだ、言っても、むだ。こいつの耳、ちくわだったわ…。」
お前がぎゅっと目をつむる。最後の方はごにょごにょ言ってて、うまく聞き取れねえ。
「……とにかく、仕事、お疲れさん。風呂もできてるから、それ食ったら、どうぞ。オレはそろそろウェブ会議だから、部屋戻るわ。」
もういろいろ諦めてます、って顔にへたくそな笑みを貼り付けてお前はそう言うと、俺に背を向けた。
パタン、と小さな音を立てて、あいつの部屋のドアが閉まる。しばらくするとあいつが英語で話す声が聞こえ始めた。…ふぅ。また、喧嘩しちまった。…なあ、俺がこのビールをグラス一杯飲んでる間だけでいいから、今日あったどうでもいいこと、いろいろ話そう。昼飯で食ったタイカレー、うまかったから今度食いに行こうぜ。俺はそんな言葉を苦みと共に飲み込んだ。
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