俺とお前

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休日出勤したものの、いつもよりはずっと早めに切り上げて帰ってきた土曜日。社長と娘が揃ってオフィスに顔を出して一緒に夕食でも、なんて寝言を言ってきたが、そんな無駄な時間を過ごせるほど、俺はヒマじゃない。花嫁修業中、なんてただのすねかじりじゃねえか。無能なお前の愚鈍な娘と結婚したって、こっちが搾取されるだけでメリットは何もない。俺は笑顔で固辞しながら、心の中で毒を吐く。そもそも俺には一生添い遂げると心に決めた奴がいるんだ。 「嫁が家で待ってますから。」 ああ、言えるものなら、言ってしまいたい。絶賛喧嘩中だけど。 今日の晩飯は何だろう。喧嘩してても飯はちゃんと作ってくれる、律儀なお前。昨日は飲み会のこと伝え忘れてて、悪いことしたな。でも今日はロンドンだって、仕事は休みだろ。久しぶりに一緒に飯が食いたい。ご機嫌取りに、お前の好きなプリンを買う。平日にすれ違って、喧嘩して、こうして週末に仲直りっていうのが、なんだかルーティンみたいになってきた。ああ、一週間ぶりに、お前といちゃつきたい。カードキーでドアを開ける間も、想像で顔がにやける。それなのに。 「…おかえり。オレ、この家出てくから。」 リビングルームの真ん中で、ボストンバッグを一つ持ったお前がそう言った。
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