オレとあいつ

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なんか、疲れちった。 俺も昔は会社勤めしてたから、通勤の大変さも、人間関係のめんどうくささも、わかってるつもり。俺はそれで早々に神経やられてフリーに転向したから、大企業に何年も勤めて、しかも着々と出世しているあいつはすげえって思ってる。接待でやたら敷居の高そうなところに会食に行ったり、週末も出勤したりして、心身ともにすり減らしてることだって、わかってる。だから家のことはできるだけ俺がしようって思ってはいるけれど。在宅で仕事してるってことはそれこそ土日も昼夜も関係なく、仕事しようと思えばできるわけで。今みたいにクライアントが海外にいたら、時差の都合でウェブを使った打ち合わせがこっちの深夜ってこともある。画面越しにお互いの顔を見ながらだから、寝ぼけた顔をさらすのも気が引ける。必然的に昼間ちょっと寝て、夜中に起きてる昼夜逆転生活になるし、日本サイドの仕事も並行すれば睡眠時間はゴリゴリ削られる。 「ただいま」ってあいつの言葉に俺が「おかえり!」って返すだけで、玄関先で蕩けるような笑顔を見せてくれたのって、いつ頃までだったかなぁ。 彼氏殿が酔いつぶれたんで、迎えに来てください。たまにはお話し、しましょーよ。 あいつの後輩君からそんな連絡が来て、超久々に街へと繰り出す金曜の夜。あいつが酔いつぶれるなんて珍しくって、ちょっと心配で。懐石料理店の麻のれんをくぐり、カウンター席を横目に、案内された座敷に足早に行けば、あいつが畳の上で無防備に寝っ転がってて、ほっとするやらムカつくやら。
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