オレとあいつ

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なんか最近さ、こいつ、家にいてもどっかピリピリしてんのよ。つい一昨日もさ、やれカレーがレトルトだったとか、洗濯物溜まってるとか言われてさ!!自分は何もしないし、ハウスキーパーも入れたがらないくせに、ちょっとひどくない!? 後輩君は俺たちの関係を唯一知ってる奴だから、気楽に話すついでについ、愚痴めいた言葉がこぼれてしまう。 「あー、そのイラついてるのって、先輩が幹部候補ってんで、シンガポールに異動する話が出たからじゃないっすか?あと、うーん、これ言ってもいいのかなぁ…。先輩の上司が自分の娘と先輩をくっつけたいらしくって。」 何それ。オレ、そんなこと一つも知らない。 ああ、でも、そうだよな。こいつはできる男だもん。結婚とか、栄転とかって話、ない方がおかしいよなぁ。こいつと付き合うって決めた時、そういうことがいつか目の前に立ちはだかるって覚悟したことを、いまさらになって思い出す。一度は腹くくったはずなのにそれを忘れてるなんて、オレも迂闊だよなぁ。 「会社では法人営業部の星、とか、ベタですけど氷のプリンス、とか呼ばれてますからね。ちょっとでもお近づきになっておきたいおっさん連中から、駐妻になりたい女どもまで、まあいろいろ狙われてますよ。ま、家に帰ればこんな美人な彼氏が甲斐甲斐しく世話してくれてるなんて、俺しか知らないっすから。」
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