オレとあいつ

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オレ、男だし。美人なんて言われても、ちっともうれしくない。おかみさんが出してくれた笹巻ずしを頬張りながらそっぽを向いた俺に、後輩君は、もぐもぐしてるとこも可愛いね、なんてへらりと笑いながら続けた。 「しかもできた彼氏は海外で今、話題のCGクリエイターときた。…やっぱ、大変なんでしょ?仕事してんのに、先輩の身の回りの世話までして。」 「んー、忙しいときは手ぇ抜いてるから、だいじょうぶ…って言いたいけど、ちょっと疲れたかなぁ。」 オレは布石を打つことにした。きれいにバトンタッチするために。あいつの人生の舞台からさらっと捌けるために。 「その上司のお嬢さん?って人が、オレの代わりに家事をやって、こいつを支えてくれるんだったら、その方がこいつにとってもいいんだろうな。オレ、どうしても作品作ってると作業に没頭しちゃうからさ。この前も『俺と仕事とどっちが大事なんだよ』って言われて、迷わず仕事って答えちゃったし。」 後輩君が口をあんぐり開けて、大の字になって寝てるあいつとオレを何度も交互に見つめる。だよね。優良物件のあいつより仕事が大事とか、どんだけ人間の価値が分からないワーカホリックなんだよって思うよね。 まじか…ばりうぜえっす…って後輩君がつぶやく。聞こえてんぞ。オレ、嫌われちゃったかなぁ。後輩君は人づきあいが苦手なオレにも親身に接してくれるし、唯一、こいつのことを気兼ねなく愚痴れる相手だと思ってたのに。結構、悲しい。いや、でももう、関係ないのか。オレも前を向かねば。立つ鳥は跡を濁さず。引き際は潔く。
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