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 病室を開けると、そこは夕日の只中だった。  窓から視線上に覗く夕日が、ベッドの中の景子を見守るように射していた。思った通り、景子はいた。夕日色に染まってまるで太陽のように思えた。けれど病室に温かみはなかった。  術後にも拘わらず電源が切られた心電図のモニター。礼二が目を覚ました時そうであったように普通刺されていそうな点滴も、酸素マスクの装着もない。すべての医療機器は眠ったように電源を落としていた。  礼二はベッドの横まで行くと震える指で穏やかな表情の景子の頬に触れた。そこは凍結した湖上のように冷たかった。病室は、テレビの音声だけが無機質に聞こえた。  夕方の報道番組だった。日中、神奈川の地区大会決勝戦を放送していたテレビ局、丁度スポーツニュースの枠だった。  テレビ画面のテロップには『初優勝 甲子園出場決定 南ヶ丘商業高校』と出ていた。マウンドに駆け寄り抱き合う真介や大作、マリヤたちが映し出されていたが、歓喜の笑顔はそこにはなかった。 「景子、俺たち、勝ったんだ」  景子に語り掛けながらも礼二は涙を堪えることができなかった。
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