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飼っていたドブ猫のゴン太が死んだ時、野球仲間のヨッシーが家庭の事情で野球を続けられなくなった時、初めて買ってもらったグローブがボロボロになって使用不能になった時、そんな些細な時も、ケイと別れて経った10年ちょっとの間でたくさんケイを思い出すことがあった。
今もそうだ。
肘を壊して野球を失った。
幼なじみのケイのことは、顔すら覚えていないのに……。
確かハナサカだったかサキサカだったか名字も正確には思い出せなくなってしまった。
10年も経てば、誰だってそうだと思う。輪郭に瞳に鼻筋に唇にモザイクが掛かって、昨夜見た夢のように、そのぼんやりとしたモザイクすらも時と共にどんどんと薄れていく。
別にそれを悲しいとは思わない。ケイの勝気な声だけは、記憶の中でいつまでも木霊し溢れているから。
――レイくん、風の神様の物語、知ってる?昨日お母さんに教えてもらったの。そしたらね、そしたらねっ、すっごいんだよ。どんな願い事でもたちどころに叶っちゃうんだって。だからいまから五つ葉のクローバー、探しに行こ。
笑えた。
風の神様の物語から飛躍し願い事がたちどころに叶うというくだりまでの説明が完全に抜け落ちているケイの言い草に。
だから五つ葉のクローバーを探しに行こうと言われても、どうしてそこにたどり着くのか、意味がわからなかった。
ただあの時ハッキリとわかっていたことはあった。暮らしていた山峡の集落がダムの建設計画によって湖の底に沈んでしまうということ、そしてその年の夏を最後にケイとは離れ離れになるということ。
だから必死になって探したんだ。
ケイに悪態をつきながらも、五つ葉のクローバーを――。
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