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「なあケーイ、ほんとにそんなもんあるのかなぁ?」
半袖半ズボンのレイが四つん這いの姿勢で辺りをせわしなく弄りながらケイに顔を向けたのは、昨夜からの篠突く雨が明けてままない正午のことだった。
おかげで膝小僧や頬のいたるところに泥が付いていたが、レイにはそんなことよりも、探し始めて早1週間、集落周辺の土手や草っぱらを諦め裏山の頂にまで捜索範囲が及べばいい加減半信半疑にもなる。
本当に五つ葉のクローバーなんて見つかるのだろうか。レイには疑問が点ってならない。
「あるよ。お母さんがそういってたんだもん。それに、ケイ、本当に聞いたんだもん」
自信満々のケイを一瞥し、レイは溜息をついた。
ケイが自信満々に言う理由はよくわかっている。ケイはお母さんの事を一途に信用していて、そういう時のケイは真夏の太陽のようにまっすぐで勝気な眼差しをしていた。
それにケイの話によると、なんとも不可思議な声を聞いたというが、それがどう五つ葉のクローバーと結び付くのか解らないし、そもそも内容すら秘密と言って教えてくれない有様なら疑心を抱いてもしかたがなかった。
「ケイ、諦めようよ。おばちゃん嘘いってんだ」
もちろん気持ちはケイと変わらない。どうしてケイと離れなければいけないんだ。どんな願い事でもたちどころに叶うというクローバーが本当にあるのなら、願い事は一つしかない。ずっと一緒にいたい、そう思っていた。
けれど8月のうだるような暑さが気持ちを簡単に折ってくれる。
ケイは憤然とし、赤いゴムで結ったおさげをブルッと震わせて立ち上がった。ケイの出で立ちは胸に大きなラビットの刺繍が入ったデニム生地のつなぎだった。ケイのお気に入りの服でいつだって着ていた。
去年の夏だったか、つなぎに泥をかけた時は一週間以上口を利いて貰えなかった。
「お母さんは嘘付いたりなんかしないんだからねっ」
小鳥が数羽慌ててキキッと飛び立つのが見えた。白いお腹にブルーの羽、あれはオオルリだろうか。ケイの声が向かいの山肌にぶつかりこだましている。
「でもさ、これだけ探しても見つからないってことは……」
「あーっ、もしかしてレイくん、お母さんのこと噓付き虫呼ばわりする気?それだったらひどいんだからね」
「チェッ、また虫々いってらぁ」
ケイは怒ると決まって言葉の後尾に虫をつける。
ケイの言い草だ。
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