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「でもわかんないじゃんか。ひょっとしたらって事もあるわけだし」
「グググッ、やっぱりだ。やっぱりなんだ。お母さんの悪口いってるんだ。ケイ、そういうの絶対に許さないんだからっ」
顔を真っ赤にしたケイが手当たり次第に辺りの草を毟り取り投げつけてきた。
「わっ、わっ、わっ、なにするんだ。ごめんてば」
レイは慌てて謝った。
ケイの負けん気には男のレイでも敵わない。レイは不必要に言った言葉を後悔した。
風に仄かに甘ったるい雨の香りが混じっている。山頂ではまた降り出したのかもしれない。不意に現れた野ウサギも、雨音の行方を探るように執拗に耳をそばだてている。
レイはそれとなくケイに視線を送ったが、目が合った途端、プンとそっぽを向いてしまった。そしてそれが意思表示であるように、大きなカエルを森の方にぶん投げている。
仕方がなかった。ケイはああなると意地になる。五つ葉のクローバーを見つけ出すまでは梃子でも動かないだろう。
レイはケイの性格をよく知っているだけに、ますます失敗したと思うのだった。
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