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 ケイはお母さんのことを噓付き呼ばわりされて我慢ならなかった。  絶対にある。  無いわけがない。  ケイが急峻な斜面を下っていると、あんまりそっちの方行くなよな、なんてレイが今更なことを言ってきた。  ケイは知らんぷりした。  そんなこと、言われなくたってわかってる。こんな斜面なんでもないんだからとケイは思った。  ケイはするすると軽快に斜面を下った。適当な場所を見つけてしゃがみ込んだ。一枚一枚丹念にクローバーを捲った。  だがどんなに一生懸命探してもどうしても見つからなかった。  ケイは自分を鼓舞するように独り言ちた。「お母さんが簡単には見つからないっていってたんだから!」  それは見つからない焦りからケイがいつものように駄々を捏ねていた、ある晩のことだった。 「ママ、無いの。どこを探しても無いの。もう絶対に見つからないの」 「ケイちゃん、簡単に手に入るものには簡単な力しか宿らないのよ。すっごく苦労して手に入れるからこそ、強く不可思議な力が宿るの。そうやって神様が釣り合いを取ってるの。だから何かを願うなら、それ相応の代わりと交換なのよ。わかる?」 「わかんないっ。わかんないもん!見つからないの!」  お母さんとのやり取りを思い出しながらケイは歯がゆそうに雲行きを睨んだ。分厚く暗澹たる雲がぐんぐんと流れてくる。風にも雨の香りが乗っている。  山間の集落で生まれ育ったケイにとって、ころころと様変わりする天候は日常的だったが、それでもその流れに乗って母の汚名を晴らす機会までがともに流れて行ってしまうように思えてならなかった。  ケイは焦った。  頭ではわかっている。けれどどうしても気が逸ってしまう。  どうせレイは明日見つければいいじゃんとか、呑気なこと思っているに違いない。ケイはお見通しだった。証拠に鳥が頭上を飛ぶと見上げたり、今度は虫でも見つけたのか手元で何かを捕まえている。
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