1. 風の神様の物語(童話)

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1. 風の神様の物語(童話)

 西の西のそのまた西の空に偏屈な風の神様がいました。そこは西の西のそのまた西の空だった為、一日中空は赤かったと言います。朝も昼も夜もなく、夕焼けだけがすべてでした。  真っ赤に憂う太陽は風の神様の恋人でした。風の神様は彼女のことが大好きで、何百年、何千年と睦まじく一緒にいました。風の神様は、彼女の傍にいる、それだけで幸せでした。  その為、風の神様は自分の仕事をしませんでした。朝には清い風も、正午の暖かな風も、夜の涼とした風も、季節ごとの特別な風さえも、何百年、何千年と吹きませんでした。一日中西の空に居た為、吹くのはただ一時の夕風だけでした。  おかげで地の人々やあらゆる生命は発展と循環を失い、衰退する一方でした。真っ赤に憂う太陽は長いことそれを憂いていました。  とある日、彼女は出かけて行って風の神様に地にあらゆる風を吹かせてほしいと懇願しました。  しかし風の神様は聞く耳もちませんでした。彼女があまりにも赤いから、そこで風を吹かし続けていなければ熱で彼女が死んでしまうと思っていたからでした。  日々人々が願ってくる願い事など歯牙にもかけませんでした。風を吹かしてくださいという切実なものから、お金持ちになれますようにという強欲なものまで、すべてひっくるめて。  そうするうちに海上の風は凪ぎ、山の風は止まり、乾季が何百年と続き、大地の大半は砂漠と化しました。  それでも風の神様は雨を降らす風を吹かそうとはしませんでした。
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