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 景子はマウンドの赤茶けた土をスパイクで均しながら溜息を付いた。  右手で揉んでいたロージンバッグを雑に投げ捨てると、思いのほか強く叩きつけていたのか白い粉が煙幕のようにマウンドに舞ってしまった。噴煙が収まると、心の中のやるせなさをロージンバングが代弁してくれたかのようにマウンドの後ろ側半分くらいが白くなっていた。  景子は苦笑いした。  案の定、監督にマウンドに上がるように言われた。試合に出れたことは嬉しいけれど複雑だった。  単純にピッチャーがいないのだ。この際女子であろうと仕方がないというのが監督の真意なのだろう。おかげで肩は殆ど温めていない。けれど、そんなことは大した問題ではない。  ベンチからマネージャーのマリヤが、「景子、そんなチンカス軍団楽勝だわ!かましたれーっ」と声援を送って来た。  つい先ほどまで景子と一緒になって、「おりゃー、それでも男かー。ちったぁ気合い入れろっ。チンポコついてんだろうがっ」と味方の投手に野次のような声援を飛ばしていただけに少し笑みがこぼれる。  景子は右肩をぐるっと回して応えたがマリヤは既に別のことに気をとらた様子でいる。  赤褐色の地毛を弄りながら球場の観覧席を凝視している。時折首を傾げたりしているからイケメンを見つけたわけではなさそうだが。
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