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景子には夢があった。
心のど真ん中に、夕日のように真っ赤に染まった忘れられない夢。それを叶えるために野球を始めた。
そう、あれは小学生だった。家のリビングでゴロゴロしていた時だ。
突然、突風が吹いて、窓ガラスがガタガタってものすごい勢いで揺れて、そしたらリモコンなんて触ってもいなかったのに、不意にテレビが点いて、わぁーってものすごい歓声がテレビの中から聞こえてきた。
夏の甲子園だった。
これだって思った。
このマウンドに立てれば、きっと……きっとって。
だが、現実はこんな点差にならなければ、練習試合でなければ、登板すら叶わない。
勿論わかってはいた。小学生だった頃、何も考えずに目指したあの時から、そもそも女子にそれを目指す資格すらないことぐらい。端っから叶うはずもない夢だってことぐらい。
それでも、目指した。
景子は後ろポケットに手を入れた。
何かに触れる。長方形の……。
景子は唇を噛んだ。
マウンドから空を見上げると、風が見えそうだった。
雲が勢いよく流れていた。
「ここに……いるよ」
景子は呟くと3球目を放った。
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