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「チキショー、どうでもいいじゃねえか」  投げやりな言葉しか吐けない今の自分にイラついてしかたがない。アスファルトの地面に思いっきり唾を吐いてみたが、気持ちは収まらない。  礼二はジーパンのポケットから煙草を取り出した。  赤と白色のデザインで、コンビニに行くと、どのコンビニでも煙草の陳列ケースの真ん中あたりに必ず位置しているそれ。いつか煙草を吸うことがあるとすればそれかなと漠然と思っていたことがあった。  今日、それを初めて買った。  マルボロとかいうやつ。  高校球児の喫煙で休部や活動自粛なんていうニュースは良く聞く話だ。けれど誰に迷惑をかけようがもう関係ない。先週、退部届を出したからだ。  もちろん監督やほかの部員、とりわけクラスメイトだった川崎大作にはなぜだとしつこく理由を問われた。それにたいして、ただ飽きたのだと言った。自分のことだから他人には関係ないと。  そしたら大作に胸ぐらを掴まれて、殴られた。  あれは利いた。今も左の口の端が腫れている。  煙草に火を付ける。  初めて吸う不慣れな味、感触に、少しむせながら煙を吐くと、地面に黄色い何かが落ちているのが見えた。  拾ってみると、栞だった。  クリアファイルを長方形にカットしてその中に黄色い厚紙とクローバーの葉を挟んで口の部分をセロハンテープで封止しただけの粗雑な物。それは礼二がいつも肌身離さず持ち歩いていた栞だった。  きっと煙草を取り出した拍子にポケットから落ちたのだろう。  気付いてよかったとホッとしながら煙草を口に運んだ。今度はかなり咽た。咽ながらも感慨深げに栞を見つめる。  不意に風が吹いた。  樹木の枝葉が大きく揺れている。クヌギの樹液の甘酸っぱい香りに似た、雨の気配が仄かに風に乗っていた。  懐かしい香りだった。  礼二は空を見上げ雲行きを睨んだ。  小一時間はもつだろう、そう読んだ。  恐らく間違いではない。 「ケイ……、俺、野球辞めたんだ」  気付けば流れる雲に話し掛けていた。  どうでもいいはずだった。もうどうでもいいただの想い出だと自分に言い聞かせていたはずだった。それなのに、無性に思い出してしまう時がある。  わかっている。  大切だった何かを失った時だ。
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