216人が本棚に入れています
本棚に追加
社長が社長室に消えて、数時間後。
秘書室をノックする音がした。
「面白そうな話を俊介にしたみたいだね」
「忠明さま。もう、そんなことが伝わってしまったんですか……。お恥ずかしいです。社長なら、いまはおいでです。もう用事はお済のようですので……、大丈夫ですよ」
「俊介……、社長には、きょうは全く用事はないよ」
忠明は、窓越しに社長の姿をチラッと確認して、笑った。
「高橋さん、婚活、始めるんだって?」
「はい、お恥ずかしいですが……」
わたしは社長を窓越しに睨んだ。
お喋りなんだから。
社長はプイッと横を向く。
「じゃさ、僕なんてどう?」
「た、忠明さま? ご冗談が過ぎますよ」
忠明はにっこりと笑った。
社長の兄弟だけあってタイプの顔だ。それに優しいし、気遣いもうまい。でも……、わたしは社長がやっぱり好きだった。
あ! 社長のことを好きでいるのは、もうやめようと思ったんだっけ。
わたしは思い直した。
そうだ、社長への思いを封印して、恋愛して、結婚するんだ。
でも……忠明さまは社長のお兄さんで、この会社の社長ではないし……
考えが堂々巡りをしていた。
最初のコメントを投稿しよう!