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社長が社長室に消えて、数時間後。 秘書室をノックする音がした。 「面白そうな話を俊介にしたみたいだね」 「忠明さま。もう、そんなことが伝わってしまったんですか……。お恥ずかしいです。社長なら、いまはおいでです。もう用事はお済のようですので……、大丈夫ですよ」 「俊介……、社長には、きょうは全く用事はないよ」 忠明は、窓越しに社長の姿をチラッと確認して、笑った。 「高橋さん、婚活、始めるんだって?」 「はい、お恥ずかしいですが……」 わたしは社長を窓越しに睨んだ。 お喋りなんだから。 社長はプイッと横を向く。 「じゃさ、僕なんてどう?」 「た、忠明さま? ご冗談が過ぎますよ」 忠明はにっこりと笑った。 社長の兄弟だけあってタイプの顔だ。それに優しいし、気遣いもうまい。でも……、わたしは社長がやっぱり好きだった。 あ! 社長のことを好きでいるのは、もうやめようと思ったんだっけ。 わたしは思い直した。 そうだ、社長への思いを封印して、恋愛して、結婚するんだ。 でも……忠明さまは社長のお兄さんで、この会社の社長ではないし…… 考えが堂々巡りをしていた。
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