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午後5時。 わたしは化粧室で化粧直しをしていた。 「先輩? もしかして結婚相談所ですか? 」 後輩が近づいてきた。 「うん、よくわかったね」 「だって、昼休み、うなりながら結婚相談所のパンフレット、見ていたじゃないですか」 「うわ。ばれていたの」 わたしは苦笑した。 「先輩、結婚相談所では登録の際、写真を撮られますよ。知ってましたか」 「男性受けしそうな、フンワリとした印象になるようにした方がいいですよ」 後輩たちがあつまってきた。 「もうちょっと、ピンクがいいですよ」 「男性はフンワリが好きな人多いですって」 「まさか! 高橋先輩、会社スーツで登録ですか?」 アフターファイブ向けに変身が終わっていた後輩の一人がええ!という声を上げる。 仕事をしていた時はキュッとまとめていた髪をといて、後輩はコテでふんわりと髪を巻いていた。 アフターファイブに備えるというのは、こういうことか。すごいわ。 わたしは感心してみていた。 「高橋先輩、 せめて髪をおろして……柔和な雰囲気に」 「そんなことしないとだめなの?」 「だめじゃないですけど……、でも多くの人に先輩の写真を見てもらって、好印象を持ってもらわないと、会うこともないじゃないですか。せっかくお金を払って入会するんだから、たくさん会った方がいいですし。だったら、まず、自分の印象のよい写真を取ってもらうことが大事なんです」 「はあ。なるほど」 わたしは後輩の言うことにうなずいた。 「婚活っていうのは、戦略ありなんです」 奥深いんですね……。勉強になります。 わたしははじめてのことなので圧倒されていた。 化粧室で闘い前の準備をする秘書たち。 こうした努力が恋愛に結び付くのか。わたしは何も努力してこなかったなあ。反省しなきゃ。 わたしはこれからこっちの世界にも飛び込まなければならないのか。 ううう。できるんだろうか。 身が引き締まる思いがした。
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