11

3/13
前へ
/69ページ
次へ
「それから、紺のジャケットは固い印象になるので……そうですね、先輩、下にブラウス着てます?」 「うん、一応」 わたしはジャケットのボタンを開けて見せた。 後輩たちはいっせいにわたしのブラウスを見て、ひそひそと話し合う。 「じゃ、ジャケット脱いで撮影か、ジャケットのぼたんをあけてくださいね」 「開けないと、ちょっと……。キャリアウーマンを前面に出した印象になってしまうので……」 「え? キャリアウーマンってダメなの?」 わたしはびっくりした。 「ダメじゃないですけど……ヒットする相手の男性の数が少なくなるかもしれません。結婚したい人が集まるところですからね。就職活動ではなくて」 なるほど。そうですね。 後輩たちのいうことはもっともです。 「それから……、わたしのでよかったら、アクセサリー余分にあるので……。これ、これなんかどうですか?」 後輩から散々レクチャーを受け、わたしはようやく会社をでれた。 これで仕事ができる女性ではなくなったはずだ。 会社から出ようとすると、数人の会社の男性とすれ違う。 「あれ、だれ?」 「え? 高橋さん?」 驚く声が聞こえた。 まじめに結婚を考える、ふんわりと優し気な雰囲気のある、服もジャケットの前を開けて、女性らしい華やかなアクセサリーをつけた女子に変身だ。 にわか変身だから、化けの皮がはがれないよう気をつけないと。一応、変身は成功しているようだ。 わたしは小さくガッツポーズした。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加