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「それから、紺のジャケットは固い印象になるので……そうですね、先輩、下にブラウス着てます?」
「うん、一応」
わたしはジャケットのボタンを開けて見せた。
後輩たちはいっせいにわたしのブラウスを見て、ひそひそと話し合う。
「じゃ、ジャケット脱いで撮影か、ジャケットのぼたんをあけてくださいね」
「開けないと、ちょっと……。キャリアウーマンを前面に出した印象になってしまうので……」
「え? キャリアウーマンってダメなの?」
わたしはびっくりした。
「ダメじゃないですけど……ヒットする相手の男性の数が少なくなるかもしれません。結婚したい人が集まるところですからね。就職活動ではなくて」
なるほど。そうですね。
後輩たちのいうことはもっともです。
「それから……、わたしのでよかったら、アクセサリー余分にあるので……。これ、これなんかどうですか?」
後輩から散々レクチャーを受け、わたしはようやく会社をでれた。
これで仕事ができる女性ではなくなったはずだ。
会社から出ようとすると、数人の会社の男性とすれ違う。
「あれ、だれ?」
「え? 高橋さん?」
驚く声が聞こえた。
まじめに結婚を考える、ふんわりと優し気な雰囲気のある、服もジャケットの前を開けて、女性らしい華やかなアクセサリーをつけた女子に変身だ。
にわか変身だから、化けの皮がはがれないよう気をつけないと。一応、変身は成功しているようだ。
わたしは小さくガッツポーズした。
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