魔女は十三夜に空を縫う

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黒いフードを被った私が、 まだ私を見つめている。 にやにやとした笑みは消え、 静かな瞳が答えを求める。 かすかに震えた私の口が、 やがてその言葉を引っぱり出した。 「………やだ」 「………」 「……このまま、元に戻るなんて、無理だけど………このまま、ほんとに他人になっちゃうのも、やだ」 私は真由達と仲直りがしたかった。 一緒にいる時間が楽しかった。 そう思っているのは私だけかもしれないことが、どうしようもなく怖かった。 これだけは笑われたくなくて、守るつもりで隠したのに、いつの間にか自分でも引き出せなくなっていた願い。 「やっとほどけてきた」 私ではない私の声が、淡々と言う。 黒いフードの中に笑顔が戻っていた。 にやにやとした笑みではない、 もっと穏やかな微笑。 訊き返そうとした私の口に、 彼女の指が当てられる。 「これでようやく取り出せる。 つっかえるほど絡ませちまって、 どいつもこいつも世話が焼けるね」 私の口に当てられた指先が、 何かを(つま)む仕草をしてすぅっと離れる。 金色の糸が、後に続いた。 指先が糸の端を摘み、 するすると引き出してゆく。 出所(でどころ)は、私の口の中だった。 たぐる動きに合わせて、 軽やかな糸が後から後から引き出される。 私は不思議と動くことも、混乱することもなく、 その光景を見つめていた。 柔らかな月明かりに(きら)めく金の糸。 引き出されるほどに、 胸を塞いでいた塊が小さくほどけてゆく。 金糸の端が私の口を出て行って、 彼女の手元に収まる頃には、 私は妙にすっきりとして、 楽に呼吸ができる気がした。 糸の塊は片手にのるボールとなって、 少し欠けた月明かりを反射している。 「あんたの塊、貰ってくよ」 私の顔をした彼女が言う。 片手が黒いローブから別の何かを取り出した。 ボール型の糸の塊が、月の光で銀色に煌めく。 「これで糸の長さが足りそうだ。 あんた達の作ったひびを縫えるだけのね」 黒いフードの奥で、 私と全く同じ顔が静かに笑んでいた。
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