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黒いフードを被った私が、
まだ私を見つめている。
にやにやとした笑みは消え、
静かな瞳が答えを求める。
かすかに震えた私の口が、
やがてその言葉を引っぱり出した。
「………やだ」
「………」
「……このまま、元に戻るなんて、無理だけど………このまま、ほんとに他人になっちゃうのも、やだ」
私は真由達と仲直りがしたかった。
一緒にいる時間が楽しかった。
そう思っているのは私だけかもしれないことが、どうしようもなく怖かった。
これだけは笑われたくなくて、守るつもりで隠したのに、いつの間にか自分でも引き出せなくなっていた願い。
「やっとほどけてきた」
私ではない私の声が、淡々と言う。
黒いフードの中に笑顔が戻っていた。
にやにやとした笑みではない、
もっと穏やかな微笑。
訊き返そうとした私の口に、
彼女の指が当てられる。
「これでようやく取り出せる。
つっかえるほど絡ませちまって、
どいつもこいつも世話が焼けるね」
私の口に当てられた指先が、
何かを摘む仕草をしてすぅっと離れる。
金色の糸が、後に続いた。
指先が糸の端を摘み、
するすると引き出してゆく。
出所は、私の口の中だった。
たぐる動きに合わせて、
軽やかな糸が後から後から引き出される。
私は不思議と動くことも、混乱することもなく、
その光景を見つめていた。
柔らかな月明かりに煌めく金の糸。
引き出されるほどに、
胸を塞いでいた塊が小さくほどけてゆく。
金糸の端が私の口を出て行って、
彼女の手元に収まる頃には、
私は妙にすっきりとして、
楽に呼吸ができる気がした。
糸の塊は片手にのるボールとなって、
少し欠けた月明かりを反射している。
「あんたの塊、貰ってくよ」
私の顔をした彼女が言う。
片手が黒いローブから別の何かを取り出した。
ボール型の糸の塊が、月の光で銀色に煌めく。
「これで糸の長さが足りそうだ。
あんた達の作ったひびを縫えるだけのね」
黒いフードの奥で、
私と全く同じ顔が静かに笑んでいた。
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