水原篤樹の遺書/第11~第15項

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第一章を過ぎた辺りで、漸く私の手が制止した。 「この話って…。」 眉間に力が入るのが分かる。 間違いなく初めて読むはずの本だというのに、私はこの内容を知っていた。どうしてなのかほぼ機能できていない思考を巡らせてふと思い出す。 そうだ、一度だけ彼が自分の読んでいる本の謎を話してきた事があった。その際に語っていた内容がこの本だったのか。 「散々引っ張って、焦らしておきながらこの謎の結末が余りにも簡単で拍子抜けしたんだ。」 「へぇ、難しい内容ばかりだと思ってた。」 「被害者のダイイングメッセージをローマ字に変えて、添えられていたメモに沿って並べただけで犯人はあの人ですっていうちゃんとした文になったんだ。安易過ぎると最初は拍子抜けしたんだけどさ、それまでの伏線の張り方とかは巧妙でもう何回読んだか分からないよ。」 「珍しいね、こうやって謎解きの説明を私にするなんて。」 「確かにした事がなかったね。ふふっ、でもこれで、君もこの謎に直面した時はすぐに解けるでしょう?」 金木犀の香りに包まれながら、悪戯っぽく頬を緩めた相手に私も唇を緩めた。 「普通の人生でそんな謎に遭遇する事なんてないよ。」 「あはは、それもそうだね。」 綺麗な顔をくしゃりと崩して笑う人だった。 そんな彼の胸に顔を埋めて息をするだけで、とてつもない幸福感を覚えていた。
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