水原篤樹の遺書/第16~第129項

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水原篤樹の遺書/第16~第129項

「お願いだから、もう何も望まないから、また会いに来なさいよ…。」 私の口から漏れる震えた声も、彼の耳に届くことなく独りの空間に溶けるだけ。 開いていた小説をそのままパラパラと適当に捲れば、途中の頁からひらりと何かが出て舞い落ちた。 咄嗟に拾い上げれば、白い用紙の上にはデスクに置かれたメモの筆跡とよく似た達筆で文字が書かれていた。 “最初の言葉に君の好きな煙草の銘柄のイニシャルを添えて” 何これ。一瞬だけ顔を顰めた。 最初の言葉に君の好きな煙草の銘柄のイニシャルを添えて。一体どういう意味だ。 ポケットに忍ばせていた煙草を取り出す。 『AMERICAN SPIRIT』その文字で飾られた残り2本しか入っていない容器はすっかりヨレている。 飛び出したメモをもう一度見て、飛び出してきた頁を見た。どうやら130頁から出てきたらしい。 130…その数字に身に覚えがあった。 「遺書は全て箇条書きだったにも関わらず、丁寧に項目が130もあって16項目以降が空白だったんです。ないなら書かなくてもいいのに、可笑しな人ですよね。15項目から飛んで一番最後の130項目にこのメモがありました。」 彼の奥さんが家を訪ねて来た際に言っていた事を思い出す。 130項目に書かれた遺書が“青い。愛しています”だ。
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