学園祭、コンテストの直前で

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紫澤へ肩を支えられ、俺が記念講堂の控え室へ何とか辿り着いたのは、コンテスト開始15分前を過ぎた頃だった。 右足を引き摺りながら室内へと入ってきた俺に、青褪めた表情を浮かべた花凛が、一目散に俺の元へと駆け寄ってきた。山科を始めとした他のメンバーも、大事となった俺を見るなり一瞬時が止まったように静止する。 「高遠君、ゴメンね。……本当に、本当にゴメンっ」 純白のドレスに身を纏った花凛は、綺麗に化粧を施しているにも関わらず、大粒の涙をポロポロと流した。 「花凛ちゃんのせいじゃない。花凛ちゃんは俺の手を引っ張って助けてくれただろ?その事実だけで……十分だよ」 花凛を安心させる為にも、痛む身体を悟られないよう俺は無理やり笑みを浮かべた。 その様子を見た花凛は、俺の手を握って何度も「うん、うん」と泣きながら頷いたのであった。 「高遠君、取り敢えず時間が無いので着替えましょうか」 苦痛に歪んだ笑みを浮かべていた俺を見兼ねて、紫澤はそれ以上俺に無理をさせないよう声掛けをする。 控え室内、カーテンで仕切られた簡易試着室のような場所へ紫澤は俺を誘導すると、一緒に彼も中へと入って来た。 思わず前日のことを思い出し、戸惑いを感じた俺に、紫澤は軽く微笑んでこう言った。 「今朝も言いましたが、僕は高遠君を応援したいんです。だから今日は何もしません。安心して下さい」 手際よく着ていた服の袖を抜くと、今度は衣装である白いワイシャツに腕をあまり動かさなくても通せるよう、紫澤は準備する。 「全く、高遠君は本当にお人好しもいいところですよ。まぁ、貴方のそういうところに皆惹かれるんでしょうけど。僕も含めて、ね」 軽く片目を瞑った爽やか王子様の紫澤に、俺は苦笑してしまう。 「コンテストに参加される皆さんは、舞台袖への移動をお願いしまーす」 助けを貰っての着替えが間もなく終わろうとしていた頃、カーテンの向こう側では実行委員から集合の合図が掛けられていた。
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