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「紫澤先輩……あなたまで心織を煽るようなことは言わないでください。俺、バイトで忙しいのもありますけれど元々あんまり人前に出るのは好きじゃないんです」 盛大な溜息を付きながら俺はそこにあった椅子へと腰掛ける。 「そうなんですか?カフェでの接客ではそんな風に見えないですけどね」 紫澤の言う“カフェ”とは、俺が高校時代からバイトをしている六本木にある高級カフェのことだ。しかもこの高級カフェは、世界的に展開している某ラグジュアリーホテルの麓にある由緒正しき一流の者のみが出入りを許されている特別なカフェなのだ。もちろんそんな立地と条件だから働く側の時給も超が付くほど高額である。 元々このカフェのオーナーの方針では学生バイトを取らないはずであった。だが当時、セレブ私立高校であるにも関わらずやむを得ない家庭事情により特待生であった俺のために、高校時代の恩師が自らの知り合いであるカフェのオーナーに口聞きをしてくれ平日の早朝から3時間、高校生バイトとしては超高額時給で特別に雇ってくれたのであった。 その代わり誰もが知っているような名前のファミリーレストランより何十倍、何百倍接遇や給仕役としての事前準備には厳しく、馴れるまでかなり苦労したことを覚えている。 お陰で現在ではフロア内での接客であれば、恐れ多くも大抵のことは任せて貰えるようになっていた。 「そう言えば僕、実は3年前のミスターキャンパス優勝者で同時にその年のミスターオブミスターの優勝でもあるのです。だからきっと、高遠君の力になれると思いますよ」 にこやかな口調で告げる紫澤に驚いた表情で俺は見つめる。 不思議と紫澤であればその座に就いていても違和感はない。むしろ王子様を地でいく彼には相応しい称号だ。 因みにミスターオブミスターとは全国有名どころの大学でミスターに選ばれた者たちが一同に会し、その中から更に全生徒のトップへ君臨する者をコンテストで決める大きなイベントのことである。
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