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山科と紫澤の肩を借り、何とか男性出場者が登場する下手側の舞台袖へと移動した俺は、実行委員が用意してくれた椅子に座りながら大きく深呼吸をし、その時を待っていた。
「高遠君、僕は観客席で見ています。終わった頃にまたこちらへ戻って来ますね」
紫澤はそう言うと、その場から一時離れたのであった。
袖から見える客席は、既に超満員の観客で埋め尽くされており、どれだけこのコンテストが注目を浴びているのかが会場中に充満している熱気からもひしひしと伝わってくる。
すると、メンデルスゾーンの結婚行進曲をお洒落にアレンジした可愛い声の女性ボーカルの曲が、大きなベース音と共に大音量で流れ始めた。
いよいよ始まった。
そう思った俺は、無意識に震えていた右足にそっと両手を置き震えを鎮めようとする。
俺の出番は一番最後だ。
きっと、大丈夫だ。
最後まで歩き切れる。
自身に強く言い聞かせた俺は、それでも震えが止まらない右足に悔しさを自らの拳でぶつけていた。
一人、また一人と舞台へ出ていく他の出場者たち。徐々に俺の出番が近付いてくる。
気が付けば、舞台袖にはいよいよ俺一人だけとなっていた。
どうしよう……。
酷い不安が募る俺は、突然背後から強く抱き締められた。
「大丈夫だ」
次いで俺の耳元で囁いた低くセクシーな声は、俺がよく知る大好きな男のものだった。
「……翔、琉?実行委員の人、いるって!」
慌てて俺は背後から回された大きな手を剥がそうとする。
「しっ!騒ぐと却って視線がこっちへ集まるぞ」
翔琉からのその言葉で俺は思わず周囲をキョロキョロと見渡してしまう。
生憎、実行委員のスタッフたちは忙しそうに舞台裏を行ったり来たりしており、こちらまで気を配る様子は見受けられない。
確かに超人気俳優である翔琉が変装もせず、このようなところに居るというのに誰も気が付かないところが良い証拠である。
「颯斗が歩けなくなったら、代わりに俺が颯斗の足になる。心配するな」
穏やかに翔琉は微笑むと、俺の顔を自身の方へと向けそっと触れるような口付けをしたのだった。
「っ、もう翔琉っ!!あなたって人は全く何でそんな危機感の無い人なんですか!」
頬を膨らませ俺は翔琉へと注意する。
「――そりゃ決まってるだろ。颯斗のことが“好き”なんだから、どこにいても気になるし心配なんだよ」
「……え?」
真剣な声色で呟く翔琉に、俺はそれ以上押し黙ってしまう。
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