ドラマ公開まであと1週間(side 翔琉)

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ドラマ公開まであと1週間(side 翔琉)

「翔琉さぁーん!」 相変わらず人懐こい猫撫で声に、愛苦しいキラキラした表情を浮かべていた天王寺飛海は、俺の名前を呼びながら近付いてくる。 飛海は今若手実力派俳優として人気急上昇中、元々は2.5次元俳優として舞台や特撮番組を中心に活躍していた。そんな彼が俺に憧れ芸能界に入ったことは、世間では誰もが知っている周知の事実だ。 そのせいで、必要以上に飛海が俺にスキンシップを図っても誰も止めようとはしない。確かに飛海の顔は男にしては中性的で可愛らしい方だ。だが男なんて勘弁だ。颯斗以外は……。 「天王寺何だ?」 この一週間、颯斗と本当に一度足りとも逢えていなかった俺は、顔にこそ出さなかったが内心酷く苛立っていた。その上次に撮るオフィスでの濡れ場シーンが押していた為、今夜も抜け出すことすら叶わないこの状況が更なる追い討ちを掛けていた。 自分から「しばらく逢えない」と言ったものの、颯斗とあんな別れ方をしてしまったせいで実は気が気じゃない。だからと言って、中途半端にLINEや電話で連絡を取るのは、余計拗らせてしまう恐れがある為、取り敢えず沈黙を続けている。 「俺、今度大学の学園祭に審査員として呼ばれたんですけど送られてきた資料に目を通していたら知ってる顔がいたんですよ。ほら、これ」 指さした先に視線を向けると、如何にも「モデル志望、もしくは俳優志望です」と言わんばかりにキメ顔をした男子学生たちの顔写真が並んでいた。 ……くだらないな。 そう思って興味なく無表情で眺めていた俺は、ふと最後の顔写真に差し掛かったところで思わず視線を止める。 「颯斗?」 予想外の人物がそこへ写っていたことで、思わず俺の口からその名が洩れてしまう。 「あ、やっぱりこの子翔琉さんの代理マネージャーを務めた子だったんだぁ」 飛海が言う通り、以前俺は「傍に置いておきたい」という颯斗に対しての独占欲から冠婚葬祭で田舎に帰るという敏腕マネージャーの代わりに、1週間限定で強引に代理マネージャーを務めて貰ったことがあった。その時に、飛海は颯斗と顔を合わせていたのだった。 「でもこの大学って確かセレブ大学ですよね?噂によるとコンテストの最後にミスに出場する子とペアになってウェディング企画があるみたいなんですよ。この大学のミスターに出場する子たちって、オーダーでタキシードを作ているって聞いたことがあるんですがこの子……車の免許も持っていないのに、タキシードのお金どうするんですかね?」 上目遣いで俺に話し掛ける飛海を鬱陶しく感じながらも、甘ったるい声で聞かされるコンテストの内容に俺は内心いちいち反応してしまう。 ……颯斗がミスの子とペアになる? しかもウェディング企画? オーダーでタキシード? 先日逢った時にそんなことを一言も聞かされていなかった俺は、あからさまに不機嫌オーラを醸し出す。その様子に周囲にいたスタッフたちも脅え始め、腫れ物に触るかのように俺へと気を遣い始める。 俺はその周囲の態度にも苛立ったが、いつものように俺に何の相談も無く勝手に色々なところに無防備に首を突っ込もうとする颯斗にも正直苛立ちを覚えていた。
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