学園祭まであと3週間

1/9
1383人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ

学園祭まであと3週間

ようやく仲間入りしたミスターキャンパスのグループLINEでその日、俺は時間と場所を指定され呼び出されていた。3限の講義が終るや否や、早急にキャンパス内外れにある離れの棟にある教室へと一人急いでいた。 何でも今日は特別なウォーキング講師を呼んだので何がなんでも必ず全員参加するように、と主催からお達しがあったのだ。 先日の女性講師もウォーキング指導を生業としている方だった為、生まれて初めてウォーキング指導を受ける俺にとっては、目からウロコで十分特別講師であると思っていたが。 だがその方とは違う、ましてやわざわざ全員を呼び出し“特別”と銘打った講師とは一体何者なのであろうか。 まさかホンモノのパリコレとか出ちゃってるモデルさんが来るとか?! いやいや、そんな凄い人がミスターキャンパスの練習に来る訳ないだろ! 脳内で様々な考えを巡らせていた俺は、不意に背後から名前を呼ばれていることに気が付く。 「え?」 急ぎながら考えごとをしていた俺は、つい周囲を疎かにしていたことを反省し、その場に立ち止まる。 「高遠君、そんなに急いでどこへ行くんですか?」 いつものように神出鬼没な紫澤が、俺の背後ににこやかな表情を浮かべて立っていた。 「紫澤先輩……いつの間に?」 離れの棟には研究室ばかりが集まっているので、メインの講義室がある棟に比べてあまり人気はない。 そんなところに何故紫澤がいるのだろうか、と俺は訝しく感じた。 「卒論の為の研究で今日はこっちの棟に来ていたんですよ。偶然、休憩の為に外へ出たら高遠君が走ってくるのが見えたので」 いつも俺や心織に付き合ってくる為、すっかり忘れていたが紫澤は4年生だ。本来であれば卒業論文に取り組んでおり、忙しい時期であったことを改めて知る。 「――で、講義後にバイト先へ行かずこっちの棟へと急いでいる様子を見ると、今日はこれからミスターキャンパスの集まりですか?」 間違いない紫澤の予想に、俺は思わず何度も縦に頷く。 「今日は何でも“特別”な講師が来るから絶対に参加するように、ってLINEが来たので……。まぁ、どの道バイトへ行くまでの時間しか居られないんですが」 携帯電話で時間を確認しながら、俺は紫澤へと答えた。 「“特別”な講師ですか……。僕がエントリーしていた年のウォーキング練習も先日のあの講師の方だったので、代々ウチの大学と懇意にしているのはあの方だと思っていたのですが今年から変わったのでしょうか?」 不思議そうな表情を浮かべた紫澤は「OBとして僕も着いていきます」と一言告げ、俺の後へと着いてきたのだった。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!