第二章 愛する君にいつの日か

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 半年が経った。この仕事にもすっかり慣れた――それは春先の事。  いつものように出勤すると、先輩に声をかけられた。俺にこの仕事を紹介してくれた、その人だ。 「おはよ。ようやく慣れて来たって感じだな」 「まぁ、やっと」  屈託のない笑顔で笑う先輩に俺がぎこちなく返せば、彼は急に真面目な顔をして俺の耳に顔を寄せる。 「今、何通?」  その問いに、俺は思わず言葉を詰まらせた。そうだ――今、何通だ?指折り数えて、俺は答える。 「……あと100、ですかね」  そうだ、上手くいけば――今月で。  すると先輩は、どこか寂しそうに眉を寄せた。 「そしたら、やっぱり辞めるんだよな? まぁ、ここはそういう奴ばっかりだから慣れてるけどさ。――じゃ、俺先行くわ」 「……」  俺は先輩の背中を見送る。けれどふと、あることが気になって――。 「先輩!」 「――?」  振り向いた彼に、俺は尋ねる。 「先輩は、どうしてこの仕事を続けているんですか?」  そう尋ねれば、先輩はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに微笑んで――。 「そりゃあ、喜ぶ人の顔が見たいからに決まってんだろ!」  ――俺には信じがたいような言葉を、口にしたんだ。
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