4 式占町の坂上家

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「庵さん、でしたね。こんにちは」 「今日は坂上家ゆかりの地を巡礼しています!」 「ゆかり? やだなあ、そんな大層な家柄じゃないですよ、うちは」 「いえいえ、かの安倍晴明と坂上田村麻呂の末裔だと聞きました」 「テン、今回はやけにおしゃべりなんだ」 「庵は今、葛葉に試されているゆえ、葛葉のことが知りたいそうだ」 「母さんのことを? ああ、それで。じゃあ、私も協力しよう。アイス、持って来たんだ。みんなで座って食べようよ♪」  伊織は明るい声で提案した。  工事現場のおじさんにお願いして、町家の向かいに置いてあるベンチを借りたいと交渉、了解の返事をもらったので、三人は座った。伊織が真ん中、左右にテンとわたし。 「なに味がいい? ごちそうするよ」  立ち上がった伊織がアイスを見せてくれた。クーラーボックスの中には、アイスキャンディがぎっしりと詰まっている。  どうやら、工事の職人さんたちへの差し入れらしい。冬だが、ひなたで動くと暑い。のども乾く。 「昨日のいちご、おいしかったです」 「……芋もよかった」 「ありがとう!」  今日も究極の選択をしなければならない。ぶどうが気になるけれど、テンの好みも知りたい。食べてみたい。  どのアイスにしようか、わたしが迷っていると思われたらしく、伊織はおすすめを手にした。 「抹茶。あずき。杏仁豆腐! どれもおいしいですよ」 「どれもおいしそうですね」  テンはどれを手に取るのだろうか、と視線をわたしはテンに移動させた。  すると、テンはやさしい目でじっと伊織を見つめていた。伊織はわたしにアイスを勧めることに一生懸命で、テンの視線には気がついてない。  どきどきした。ずきりとした。 「す……すみません、ぶどうがいいです」  意地悪をしているわけではなかったが、わたしは伊織のおすすめを外して選んだ。いや、初志貫徹というやつだ。 「おぉ、ぶどう! おいしいですよ~。お目が高いですね。巨峰ベースです。季節には、シャインマスカットもあるんだけど」  おすすめを無視されたのに、伊織は嫌な顔をひとつもしなかった。むしろ、笑顔でぶどうを差し出してくれる。あ、この顔、葛葉に似ている。
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